文化の伝承と大型レコーディングスタジオの役割


2012年現在、大型スタジオが減少しているのは前述のとおり。
それにはいろいろな要因があると思われるのでここでは割愛。

では、大型レコーディングスタジオが無くなってどういう影響が出るかという事になりますが、
まずわかりやすいのが

大編成のバンド物や弦を一斉に収録できるスペースが減る。

ということだと思います。
もちろんこれもあります。

大型スタジオには広大なスペースと多くの機材があり、多くの関係者がそこに存在する。
こういったことまではテレビなんかで大きなレコーディングスタジオを見たことがある人なら
簡単に想像できることと思います。

ですが、この項目と次の項目ではそういった表面の事ではなく、もう少し踏み込んだ事に触れたいと思います。

まずは大型スタジオと近年増加したような小規模レコーディングスタジオの多くとの中味の違いを比較します。

※(ここでは例えば一線のプロとして活躍されているかたのプライベートスタジオは小規模スタジオの定義に含みません。
  次項でこのあたりの違いに触れたいと思います。)

ではまずエンジニアについて。

小規模スタジオ…専属のハウスエンジニアが一名でやっている事が多い。アシスタントはあまりつかない。
           ハウスエンジニアがProtoolsを操作、サウンドエンジニアも担当することが多い。

大型スタジオ… 様々なサウンドエンジニアが出入り。セットアップの補助やProtoolsの操作にアシスタントエンジニアが付くケースが多い。
           (もちろん自分でProtoolsを操作する方もいます。また、アシスタントがProtoolsを操作するのは日本独自の文化との説あり。)

次に主な顧客について。

小規模スタジオ…主に地元地域のアマチュア、インディーズバンド中心。メジャーへの納品は少ないか皆無。

大型スタジオ… 主にメジャーやメジャー系のインディーズ作品中心。自社作品など。

まずここまででこの二つのスタジオに大きな違いがあることがわかると思います。
ではその違いを下記にまとめます。

小規模スタジオ… 小規模スタジオのレコーディングスタイルは、主にハウスエンジニア対バンドのような形になります。
             また、アマチュアやインディーズバンド中心ですのでエンジニアに求められるスキルはサウンドのみならずディレクションなども
             要求されることになるケースが多いです。

大型スタジオ…  大型スタジオのレコーディングはスタジオの他にサウンドエンジニアが入り、ハウスのアシスタントが付き、ディレクター、プロデューサー、
            楽器の調整などを行うテクニカルエンジニアなどがそれぞれの仕事をこなします。

ここに大きな矛盾があるのにお気付きいただけますでしょうか?

小規模スタジオのほうがアマチュアやインディーズバンドに密に接し、様々なことを要求されるのに対し、日々のクライアントがアマチュアやインディーズであること、
普段から接する人材の少なさから、大型スタジオのレコーディングと比べてノウハウを共有したり、学習することが出来ない状況になっています。

一方大型スタジオは様々な役職の人材が役割を果たし、相互に学習、ノウハウを蓄積できる環境にあることがわかります。
こういった多くの人材が刺激し、そこに生まれる文化やノウハウをまた次の世代やアシスタントエンジニア、ミュージシャンらに伝承出来る場所が大型スタジオです。

次項では大型レコーディングスタジオに見られる役職、役割についてもう少し掘り下げたうえで、小規模スタジオとの比較をしたいと思います。