前項で書いたことを引き継ぐような内容になりますが、この項ではレコーディングにおける役職、その人物の役割にスポットを
当てつつ大型スタジオ、小規模スタジオを比較していきたいと思います。
まずは大型スタジオ…
少々乱暴ですが、わかりやすく書くと大型スタジオでレコーディングする場合はコストも小規模スタジオよりはるかにかかります。
これは大型スタジオの使用料が高いということではなく、関わる人材のギャランティーや数などによるところも大きいです。
例えばバンドの場合はもちろんバンド、そしてサウンドエンジニア。
ここまでは簡単に想像が付くと思います。
加えてこれまた乱暴ですがわかりやすく書くと、他にプロデューサー、ディレクター、マネージャー、テックエンジニア等の
役割が存在し、時にそれぞれにアシスタントが付くような場合もあります。(人材育成の意味もあります。)
ではざっくりレコーディングの現場視点で役割を書きますと
プロデューサー… 主に音楽のサウンドや演奏内容についての管理、指揮を行います。(例:サウンドプロデュース)
ディレクター… 主に現場が円滑になるよう進行管理を行います。
テイクに関してのディレクションもプロデューサー同様行うケースが多々あります。
まずこのプロデューサーとディレクターは現在の音楽制作現場においては役割が随分かぶってきます。
当然プロデューサーはいい音楽を作るのが目的ですから現場の空気にも気を使います。
ディレクターはやはり現場が円滑に動かないような状況を避けるために音楽的な意見も客観的立場から求められます。
このあたりがウィキペディアなんかではわからない感覚なのかもしれません。
サウンドエンジニア…主に音を録音する際の技術的な部分を担当します。技術といってもやはり録る音楽を理解し、
それにマッチする機材を適切に使用し、また提案し、ミュージシャンが演奏しやすいような
モニターバランスを組んだり、ミュージシャンが演奏しやすいようにコミュニケーションをとる
能力も当然必要となります。無論プロデューサー、ディレクターが聴きやすい状況作りや、
サウンドの狙いなども双方確認するためコミュニケーション能力は必須です。
(中にはサウンドがめちゃくちゃ良いけど変わり者な方もいるそうですが、基本スキルは
当然高く、ディレクターがそれをも理解してコミュニケーションをフォローする事で成立。)
これまたレコーディングエンジニアもややこしいことに上記のプロデューサー、ディレクターと非常に役割がかぶります。
他にレコーディングエンジニア、ミックスエンジニア、マスタリングエンジニアなどに細分できますが、
ここではサウンドエンジニアとして強引にまとめたうえでレコーディング時にスポットを当てて書きます。
マネージャー… これはスタジオマネージャー、アーティストのマネージャーと色々ありますが、やはり進行を円滑にする
手助けと、進行管理に一役買います。また時に音楽についても意見が求められるケースがあります。
例えばレコーディング以外のアー写チェックなどもタイミングを見計らって進行したりする事も。
当然ですがレコーディング中もそれ以外の仕事が進行しているのがプロの現場です。
取材やコメント収録、メディアへの出演などそういった事を含む全体的な進行を踏まえて行動します。
テックエンジニア…テクニカルエンジニア、テックさん、呼称は色々ありますが、主に楽器のメンテナンスや
チューニングなどを担当します。
ドラムのチューニングやギター類の調整などは想像しやすいことと思います。
加えて人によっては楽器やアンプ類を持ってきたりする方もいます。
書き出すと各ポジションまだまだ書くことになりますので、ざっといったんこんな感じで。
非常に複雑に各ポジションの人間が絡み合っているのはご理解いただけるかと思います。
それが重要です。
他にはソロシンガーなんかの場合、アレンジャー、ミュージシャンも起用しますので収容人数からして
広いスタジオが必要です。
また、各人のギャランティーを考えるとコストの面に立ち戻っても単純に大型スタジオは料金が高いって言う
単純な話では無いわけです。
では小規模スタジオ…
ここではリハーサルスタジオ併設のProtoolsHDが入っているようなところと定義しておきましょう。
それこそNUENDOやCUBASE、Protools(native)のようなところを入れるとややこしくなりますのでそれはまた別項で。
基本的には前項で書いたようなワンマンオペレートが中心です。
リハーサルスタジオ兼レコーディングスタジオでは電話番的なマネージャーは存在するか、店長がそれをこなします。
サウンドエンジニアとして雇用されている人物が主にクライアントと現場でやり取りをして収録からミックス、マスタリング
までこなします。
基本的にはスタジオにある機材で作業を行い、そんなに多くの私物機材を持っていない傾向にあります。
メインとなるのがやはりバンド(クライアント)とエンジニア(ハウスエンジニア)の最小単位での現場であり、
バンドが主に意見を出します。またプロデューサーがついたりする現場は少ないか皆無です。
では何故こんなに関わる人材に差が出るのかと考えたときに、規模がどうこうという話ではなく、
根本的にクライアントの発注先が異なるという事があります。
上記大型スタジオの例の場合、間違ってもスタジオにクライアントが発注してプロデューサーが来てみたいな
構図ではないのはおわかりでしょうか?
例えばメーカーに話し、今回は誰のプロデュースで行くか話し、プロデューサーがじゃあエンジニアは誰でとか、
ディレクターは誰でとか、リズム録りがこのスタジオで、ダビングがこのスタジオで、ミックスが誰でどこのスタジオを
使ってとか、そういう流れでスタジオは選定されます。
一方小規模スタジオの場合、多くはスタジオがどこにあって、いくらで、どんなところで、誰がそこを使っててみたいな
ところで選定されます。
もちろん、そこのエンジニアさんがいい人でみたいな話もありますが、エンジニアに発注してどこのスタジオを使う
みたいなのはなかなか無いです。
そもそもハウスエンジニアの場合、立場的にも多くは自分の雇用されているスタジオを使うことになりますので。
なので小規模スタジオ文化では例えばスタジオ○○=△△さんみたいな形になります。
逆に個人スタジオを持たれている先輩は△△さんのスタジオみたいになります。
(似たようにややこしいプライベートスタジオ的な商法はありますが、また別項に見分け方を書きます。)
これ結構わかりやすいと思うんですが。
こういった点で見てもそもそもの構造、スタンスが随分と異なり、同じレコーディングという言葉や、レコーディングスタジオ、
エンジニアのような響きこそ同じ響きですが中身は全然違います。
そして重要なのは前項でも触れたように、大型スタジオで積む経験は各ポジションとの理解を深め、また同時に多くの
ノウハウを吸収できます。
こういった経験を多く積み、結果を出し、なお常日頃から向上心を持っているのがプロと呼ばれる人種です。
この観点から考えた時のサウンドエンジニアの担当はやはりいい音、音楽にマッチした音を録ると言う事に尽きます。
もちろんコミュニケーションやディレクションのスキルも重要です。
が!!!!!!!!
声を大にして言いたいのはそれは専門知識があって、機材が扱えて、あるいは機材が用意できて、
求める最大限素晴らしい音を録るというテクニカルな部分を満たしての話です。
いい機材が無くてもいいとかそんな話をする前に自分の職分で他人に任せられない部分があるのだから、
そこを妥協してどうするのかと。現場に機材が足りないなら持ち込んだり、そんなのはプロのエンジニアなら当たり前です。
クライアントは色々ひっくるめたその人の音に信頼を置くわけですからそれを体現する道具が絶対に必要になります。
もちろん現場の機材で代用できるのであれば代用しますが、最終的には妥協の無いようキッチリ納品します。
各人の立ち位置が複雑に絡み合うからこそ、自分にしか担当できない部分に重点を置くのはチームとして当然の動きです。
それが出来なければまさに本末転倒です。
これはもう完全にスタンスというか、どんな仕事であれ言えるようなプロとしての最低限の常識かと。
こういった経験を積むことなく、あるいは中途半端に理解したつもりになっているアマチュア、インディーズ層が
残念ながら近年シェアを拡大しています。(メジャーが衰退したという側面をあわせても。)
まあ上記大型スタジオでするような経験はなかなか経験できないことなのに対して、
街なかのスタジオのレコーディングは手軽ですから。
ただ悲しいことにこういったことの伝承が大型スタジオの閉鎖等でなかなか出来なくなっているのが現状です。
こういった事の本質を理解するというのは簡単じゃないです。
次項では低予算のレコーディングとアマチュア録音の差異について書きたいと思います。