なかなかに真面目な見出しになっていますが、ざっくり思うことを書いてみます。
まずは音楽で生計を立てると言ってもさすがに色々あります。
例えばミュージシャン、アレンジャー、プレイヤー、ディレクター、プロデューサー、各種エンジニア、
スタジオの経営、ライブハウスの経営、CDやDVDプレス、媒体、印刷やグッズ制作、流通、機材販売などなど。
ただどんなポジションであれ、音楽業界、音楽が絡んでお金がまわっている産業の世界の影響は必ず受けます。
そう考えると今まで散々書いてきたように文化も業界も産業の面でも相当な変化があるのが今日です。
ちなみに前回のコラム更新からレコーディングが立て込んで更新期間が開いたんですが、その間に
Yahooオークションに新しいカテゴリーが出来ました。
コンテンツ制作>レコーディング、音楽製作
こちらはほぼ宣伝用に近いものも多くありますが、本当に値段もバラバラでなかなかのカオスな状態です。
そしてこれらのなかにプロの音楽業界人が利用するようなものはほぼ皆無といえます。(2012/10月現在)
逆にこういったコンテンツの制作がこんなものだと思っているアマチュアマーケットは今やプロの世界よりも
大きくなっているようにも思います。
今はデジタルが進化し、いろんな事が身近になり、レコーディングも例えばドラムや大音量の楽器、
多チャンネルのマイクが必要な楽器でなければかなり手軽に行えるようになりました。
しかしながらそういった手軽さに比例して、本来の音楽コンテンツ制作も手軽になったかというとそれはありません。
むしろ本当にいい環境、いい経験が出来る機会からは余計に離れてしまい、ともすればレコーディング、
コンテンツ制作そのものに対するプロ意識、プロの世界への入り口は狭くなっているように思います。
同時に、レコーディング機材がデジタル化し、コンパクトになったため、リハーサルスタジオや、
アーティストのプライベートスタジオでレコーディングが行われるようにもなりました。
それそのものはいい事と思いますが、やはりそういったスタジオには専門職としてエンジニア経験を積んだ
人材がいるケースは少なく、オーナーも本職がエンジニアというわけではないケースも多々あります。
この場合、エンジニアとして他のスタジオに乗り込むような経験、その他エンジニアとしての経験の量や姿勢として
どこまでレコーディングスタジオ、レコーディングエンジニアとして空間と経験を提供できるかが問われます。
僕はアーティストがエンジニアをする事は否定的に思いませんが、ミュージシャン、アーティストだから
エンジニアより同じミュージシャン、アーティストと分かり合えるみたいなのは無いと思っています。
そういった理解のある人は絶対にプロデューサーやディレクターとも分かり合えるような人材です。
そしてエンジニアとしてしっかり知識や機材へのこだわりを持っている事でしょう。
最も自分の発する音と客観的にじっくり向き合える場所はレコーディングスタジオです。
ライブとはまた違った音への向き合い方を学び、細かな表現を確認し、その時のみならずその後の表現に
少なからず影響を与えます。
多くのプロデューサーやエンジニアも言っていますが、間違いなくそういう意味でプレイヤー、アーティストが
育てられる場所はレコーディングスタジオであり、レコーディングです。
もちろんライブでも得るものは多々ありますし、成長もします。
が、特に最近のライブハウスのリミッターがかかってジャキジャキグシャグシャの音で自分の正確な出音を把握し、
成長するのは相当困難で限界があります。
そしてレコーディングと違ってプレイバックを聴く事も無いですので。
経験とは本当に大切で、例えばやはり『これだ!』というようなマイクやプリアンプでレコーディングし続けると
そのマイクでの歌い方や表現の仕方、自分の声がどんな風に録音できているのかがわかるようになります。
わずかな明るさや密度感や透明感、歪み方など色々ですが、こういったことがわかりだすと歌の表現も広がります。
ギターにしてもピッキングの細かいニュアンスやフォーム、音色についてシビアに向き合えます。
同時にディレクター、プロデューサーがそういった表現に対しアドバイスをくれるとなお最高です。
これが街のスタジオや、一介のプレイヤーが関与して制作した場合、結構な確率で歌のディレクションが良くないです。
じゃあお前(門垣)なんでディレクション出来んだよ!って話ですが、これは間違いなく演劇の経験が大きいです。
元々歌も好きでしたが、地味に多感な時期を演劇に関わって過ごし、舞台監督さんに死ぬほどしごかれたり、
演技指導してもらって舞台に立っていた経験が生きていると思います。
ちなみに大学も演劇に関する運営の研究とインディーズの音楽業界についての論文で卒業しています。
イギリスまで行ってアビーロードではなくストラットフォードのシェイクスピアの生家まで行きました。
演劇はライブより余裕でシビアです。
演技は演奏と違って一歩間違えばすぐに嘘やフリになってしまいます。
その時の場のしらけっぷりたるや弾き語りでコードをミスることの比になりません。
メソッド演技法をある程度理解し、体現できれば相当にいいディレクションが出来るようになると僕は思います。
TVを見て演技が上手い下手と同じくらい歌にも表情が出ますので判断は似たような感覚です。
いずれにしても、舞台監督の存在はものすごく大きかったと思います。
大学の劇団でも色々教わりましたが、正直外の劇団に入って学んだことが大半です。
大学の先輩(役者、脚本志望)が舞台監督をするのと、本職の舞台監督とでは当然次元も違えば教え方も違いました。
さて、少し脱線したような感じですが、脱線しても共通している事が肝です。
それは経験、及び経験が出来る場所です。
これからミュージシャンでもエンジニアでも何の仕事に関してもそうですが、それで生計を立てていけるように
なりたいと思うのであれば、経験を求め、経験できる場所に身を置くことが大切だと思います。
生計を一時的に立てるとか、バイトの代わりの小遣い稼ぎであれば、Yahooのカテゴリーのような事でいいでしょう。
しかし、それはアマチュア向けの作業代行のような範囲であり、プロだと名乗ったり、それがプロの世界と思わせる
ような事は結果としてそういったサービスの首を絞め、歳を重ねたあとに何も作品が残らない、担当した人物を
誰も知らないなんて事になりかねません。
その上で録音した本人の宝物にもならないような作品だった時には目も当てられません。
それはもはやクリエイトではなく、上っ面で行われる作業と消費に過ぎないと思います。
その場だけではなく互いに経験を積んで成長できてこそ続けていく事が出来ると思います。
これは業界全体にも言えるのかも知れません。
今は不況かもしれませんし、インディーズやアマチュアの仕事に関わった際に多くの難題が出てくると思います。
しかしながら限られた状況下でも最善を尽くし、経験と成長を提供できなければ次の芽も出ません。
これから音楽で生計を立てていこうと思っている方がいらっしゃいましたら経験について、是非真剣にお考えください。
そして『お金もらってるからプロ』みたいな事を平気で言ってる人はこちらを買って見てください。