MORGで感じた機材の優先度、プロとは?


前回の追記のまとめとしてエンジニアを含む全ての優先度を今現段階で思う範囲で整理しておきます。

優先度1 電源環境(ノイズが無い事が絶対条件)         
優先度2 部屋鳴り(フラッター等への対策)             
優先度3 モニター環境                         
優先度4 マイク、マイクプリ、コンバーター、クロック        
優先度6 ProtoolsHD                          
優先度7 アウトボード                          

優先度未知数 エンジニア  

                      
とりあえずレコーディングを本気で追及して、音質を語るレベルで査定するとこんな感じです。

どんな機材でもノイズだらけではレコーディング以前ですし、部屋鳴りがあまりに悪い(狭くて並行壁、鉄筋コンクリ等)
状態だとまともに音が鳴らせません。

で、モニター環境が悪いと録音している音を把握できないです。

マイク、マイクプリ、ADコンバーターなんかはここで妥協すると二度とそれ以上戻る事は出来ませんので
どれもこだわる事になります。もちろんクロックも大きく影響します。

著名なサウンド・エンジニアが言っていましたが、一度失われたクオリティーは二度と戻りません。

そしてProtoolsHDはどう考えても必須です。ProtoolsHDが無いと不便で仕方ないです。
プロユースと名乗るスタジオであればまず使う使わないに関わらず外部とのやり取り上、本当に必須と思います。
ただ、同じProtoolsでもLE、M-Powerdは全く別物ですので混同しないで下さい。
ProtoolsHDをウリにするスタジオもありますが、大抵スタジオの信用の顔としてHDであることを明記しているだけです。
ただ、ProtoolsHDだからプロの音とはならない事はここを読んでいる方であれば補足は不要でしょう。

逆にMORGも全然使いませんがNUENDOとAURORA16、AES16Eのネイティブスタジオセットを購入しました。
ちなみにPCもデジデザイン認定PCですが、なんとProtoolsHDよりはるかに安価な100万以下で全て揃いました。
実際使ってみてやはりPCへの負担が気になったり、互換の面でとても不便です。
そしてメインのProtoolsHDシステムとNUENDOとAURORA16を比較しても別にNUENDOの方が音がいいとは
全く思いませんでした。マスタークロック等も違いますがメインシステムの方が当然圧倒的に心地よい音でした。

しかし、逆にクロックなどを追い込めばまだまだ音は向上するでしょうし、互換の面が解決すれば十分使える印象です。
追求すればProtoolsHDセットより高いAD/DAコンバーターなんかも必要になりますので要はこの先は好みですね。
一口にDAWの名前を出してもインターフェースなどの構成はスタジオごとに違いますしね。

そしてアウトボードもレコーディング時、ミックス時に必要になってきます。

で、エンジニアですが、以前これを一番大事と書いた際に誤解を生んでしまったので補足します。

確かに機材を扱うエンジニアが最も重要です。

ただ、そのレベルのエンジニアと言うのは一通りの経験を積み、しかも探究心があり、
前述の優先度と相違があれど、機材に対してもそれなりにこだわりと良識を持っている人物です。

ちょっとやそっとの経験やかじりたての知識ではエンジニアとして重要度を語るレベルにはありません。

例えばトップエンジニアでもノイズが乗って、機材も限られていては本来の力はもちろん出せません。
環境を作り、選択すること、時に機材を改良する事もエンジニアの技量のうちと考えてください。
プロのエンジニアは環境も選びますし、自分がいいと思う機材も仕事道具として所有しています。

ある人はNEVE1066や1073。ある人はNEUMANN U67。機材とエンジニアは密接な関係にあります。
ただもちろん限られた環境下でもその中でそこで考えられるベストを出せる柔軟性も持っていますが。

そもそもそういった苦労、努力無しにいっぱしのプロエンジニアを名乗れる技量がつくのか考えればわかりますが…。

わかりやすくいえばカメラのプロが写真を撮るのに安い民生用のデジカメで本当に作品レベルの撮影ができますか?
プロ機とはレンズから全く異なり、照明から何からすごく頑張っても限界は見えていると思います。
プロであれば当然その条件でもそれなりに写真が撮れるわけですが、最高とは言い難いものか、デジタルの
質感を生かしたアプローチで演出するかのどちらかになるでしょう。

マイクやプリも同じです。
どう頑張ってもU87AIの音をU67やE47、U99B、BRAUNER VM-1やBLUE BOTTLEの質感には出来ませんし、
ISA ONEやオーディオインターフェース附属のプリの質感をOLD NEVEやMP1A、ISA215、AMEK9098の質感に
することは帯域だのプラグインで加工だのの話ではなく、根本的に不可能です。

これは高解像度のモニターで聴けばハッキリと認識できます。

DIRK BRAUNERに至ってはフォトグラフィーという言葉に対して、芸術的なサウンドのマイクで集音することを
オーディオグラフィーと呼んでいます。

このクラスのマイクになるとオールハンドメイドも多くなってきますが、SOUNDELUXに至っては、
世界で現在唯一ビンテージNEUMANNを完璧に修復出来る職人、DAVID BOCK氏が全て一人で作っています。
世界最高の職人が責任を持って全て自身で手がけているマイクだけあり、これらのマイクにはビンテージマイク
が持つ、魔法のような存在感を持ったサウンドが宿っています。
これはBRAUNER VM-1でも同じような感動を覚えることが出来ます。(BRAUNERも自身が熟練の職人。)
BRAUNERの場合はビンテージへのリスペクトと新時代での機能性、DAVID BOCKからはビンテージの
持つマジックや伝統、感動、歴史などを感じることが出来ます。

こういうスピリチュアルな表現は胡散臭いですが、これこそ職人気質の成せる業と言えるでしょう。

単なる従業員や並みの職人の手作業、それらも全てハンドメイドと呼ばれていますが、熟練職人DAVID BOCKが
今なおSOUNDELUXが無くなった後もBOCK AUDIOとして、恐らく地上最後と思われるビンテージを熟知した
究極のマイク職人としてこだわりを追求していると言う事は本当に物凄い事と思いますし、感動を覚えます。

そういった職人やずば抜けたツールが存在するからこそ、我々サウンド・エンジニアは敬意を持ってそれらを扱い、
アーティストと共に触発されて、それぞれプロ同士のこだわりが混ざり合って、プロの仕事を完遂できるわけです。

何よりこういったケミストリーがライセンスの無い世界でプロを名乗っていく自信と責任を教えてくれるのです。

mics

こういった事があるからプロのサウンド・エンジニアは自分のサウンドを体現するためのツールにこだわるのです。
これは写真でも映像でも車でも美容でも設計でも調理でもどんな業界のプロでも一緒です。

レコーディングで現場に機材が無いから出来ませんという状態は素人の想像の世界のお話で、プロなら
機材の確認をし、機材の無い現場であればマストな機材は持ち込みますのでそういう状況は現実にはありません。

先日ピアノレコーディングのアシストでBosendorfer 225にて某アーティストを収録しましたが、
メインエンジニアサイドの機材以外にMORGからNEVE、TUBE-TECH、NEUMANN等を持ち出しました。
当日現場で組み合わせを模索する形でセッティングを行いました。後日MORGがマスタリングを担当します。
もちろん持ち出す機材は狙いに適しているかなどを考えて選定しています。

ちなみにメインエンジニアさんがまず仰ったのは確認用のスピーカーと再生システムは音場補正ができて、
フラットな音で聴く事ができる、信用のある使い慣れたものを持ち込むということでした。

依頼内容に応えるためのツール、環境、環境や人材の選択肢もエンジニア自身の評価の一部なのです。

mochidashi

bosen

若手の方や、巷のスタジオでよく音質にこだわっているとか、高音質とかを聞きますが、
私の知る限りのトップエンジニアはU87だのProtoolsHDだの、業界標準だのという次元の談義と
無縁なもっと高次元の話で音質やクオリティーを語っておられます。

どの基準をプロととらえるのかで話は大きく変わってきますが、『U87があります!』っていうレベルと
『U87しかないです。』という次元があきらかに存在しており、安い機材とLEで私はプロです、これで最高の出来です。
このままプレスしてください。と胸を張って仕事を完結する事が出来ないという考えの人が普通のプロの考えです。

プロは良識、常識、上の水準をしっかり知っています。また、リアルな情報網も持っています。

アーティストのパフォーマンスがあり、プロとしてそれを受け止める環境、機材があり、全てはそこからの話であって、
正確にキャプチャー出来ていないのに腕だの人間だのといくら言っても魔法使いじゃないんだからぶっちゃけ無理です。
正確に狙い通りに録音するための機材を揃えることも腕の一部です。機材は単に道具でなく、相棒ですから。

そして前述のように本当にいい機材は本当にこだわって作られている工芸品、芸術品であることを知ってください。
通販や店頭で買えるコストカットに重点を置いた、バイトが作る精度の低い大量生産の製品とは根本からちがいます。

こういった次元を知らないちょっと多くを語るには早計な方もインターネット、ブログの普及で増えているように思います。
こうした誤解はまた安易な発想を助長し、音楽業界の新たな芽に悪影響を与えることもあるでしょう。
これらは本当のプロやどっぷり業界人であれば一見してわかりますが、素人にはわかりません。
もちろん語りはどうあれ、クライアントが満足し、ステップアップできればそれでいいとも思いますが。

向上心があるということは素晴らしい事です。
ですので高音質だの業界標準なんて言葉にとらわれずに、その上でプロを目指すならまずプロと
接点を持つところから始めるのが大事だと私は思います。
スタジオを名乗ってお金を取ってるからプロという理屈でいきなりプロを名乗るのは本当に勘弁してください。

こと音楽に関しては目に見えない分他の業界よりも色々と誤解があるような気がします。

苦労して、成長して、工夫して評価を高めて、チャンスに出会い、大きな責任やプレッシャーのある仕事をこなし、
実績を積み、研究を重ねてもまだまだ上を見続ける。

私が思うプロとはそういった人間の事を言っています。

どんな業界でもそういった人間は頭角を現し、出世します。
MORGのまわりにはそういった方が本当にたくさんいるので刺激に事足りません。
当然ながらMORGもまだまだこれからもっと発展、追求の道に入っていきます。

まあ要するにプロと名乗るのはライセンスが無い以上簡単ですが、職業で続けるなら優先順位はあれど
それらを全て満たす事がより良い仕事をし、自分のスタイルを築く上で必須事項になってくるわけです。
で、もちろん一気に全ては満たせませんので、自分で用意できないならスタジオを借りるなりするわけです。
私もそうしていました。

で、いい作品、音、音楽というのはなにもエンジニアが作るものではなく、プレイヤーのプレイ、アレンジが
あってのことです。昔のMTRやフルアナログに比べたらProtoolsなんて親切そのもので簡単明快です。

『いい音作ります』といってもバンドと一緒のベクトルを向いて努力しないと無理ってものです。