追記2009年5月


MTRからCUBASE、ProtoolsLEなど宅録機材を経て、こだわりぬいた現在の環境に至って思うことをいくつか書きます。

まずは機材面に関して。これだけやって最終的にわかった一番大事な優先すべき機材はやはりモニター環境です。
巷ではなかなか予算をかけれていないセクションかもしれませんがやはりこれが良く無いとサウンドの追求など到底無理です。
FOSTEXや10Mも悪くはないですが左右のマッチングを行ったり、カスタム改造するくらいで無いとよほどの強運に恵まれない限り
ある種の限界を感じるはめになります。鍛錬と言う意味では複数のモニター環境を行き来するのも非常に効果的です。
大手スタジオや熟練エンジニアが10Mを好んだりするのはそういった鍛錬の結果、癖を理解しているためです。
また、大手スタジオでは10MやFOSTEXのみではなく、ラージ等、他にも様々なモニターを置いてある場合が殆どです。
色々なモニター環境で作業や音楽を聴いて自分の環境と耳を補正、強化して行く事が大切です。

モニターコントローラーについても出来ればGRACEのm904等の精度高いものを使いたいところです。
他社からも色々と出ていますが、毎回同じ音量で聴いたり、音量を変えても確実かつすぐにリファレンス音量に戻せるような
機能は耳を鍛える上でも、耳を疲れさせないためにも非常に有効かつ必要不可欠な機能と思います。
もしくはデジタルミキサーを使うのがベターです。音量で音の印象は変化しますので音の的確な把握には音量の把握は必須です。

そして音が把握できる環境が出来て次に必要なのはレコーダーです。
条件としてレイテンシーが限りなく無くて、録り音を直接モニターできる、あるいはプレイバック時に違和感が無いシステムが理想です。
コストを度外視すれば普及率と互換性、拡張性全て考慮してもProtoolsHDが現在もっとも優れていると思います。

そして次はいよいよ音の入り口ですが、まずはやはりマイクです。
定番のNEUMANN U87もあればいいですが、ソースによって相性があるので安くても個性のあるマイクもいくつか欲しいところです。
そしてマイクは非常に個性が強いので状態も含み良く理解して使い分ける事が必要です。
例えばハイを抑えたいならわざと経年変化でハイ落ちしているマイクで録音するというのも当然ながらアリです。

あえて書きますが、U87も定番であって万能、最高などではありません。スタジオ内では特にハイエンドマイクにも属しません。
ビンテージのハイエンドマイクや、現代でもBLUE BOTTLE、BRAUNER等のとてつもなく良いマイクもあることを知っておいてください。

で、次にプリアンプやEQ、コンプ等のアウトボード類です。
特に歌、ベース、スネア、キックなど音源のセンターに位置するもの関連から揃えていくのがベターと思います。
ここでもNEVE1066とUREI1176があったら最強です!他に何も要りません!みたいな発言はMORGでは万死に値します。
特に声は体調などでも倍音成分が劇的に変化するのでマイク、マイクプリ、コンプの選定は毎度異なります。
もちろんこの人の声はこれがデフォルトみたいなおおまかな組み合わせと設定は記録(メモor記憶)しておきますが。
定番機や高級機材はそれだけでもある基準に達した音はしますが、個性も強いため、組み合わせを間違うとその個性に
声がマッチしないといった現象も起こってきます。

U87でNEVE系のプリで1176通して万歳!みたいな時期もあるのかもしれませんがそれだけでは自己満足で終わりです。

このあたりまでをクリアしてくれば電源の強化やケーブルの強化による変化もハッキリ効果が認識できる耳になっていると思います。

それからさらに追求すれば次にマスタークロックです。これはハッキリ言ってルビジウムクロックを知ると他はほぼ無意味です。
ここまで劇的な変化はなかなか無いであろうレベルでサウンドがクリアになります。ジッターが感じられなくなるのでしょう。
逆に言えばこの感覚を知れば通常のシステムでジッターの影響を認識できるようになります。
ただ、非常に高価かつ、モニターの精度が低いと劇的な変化を感じられないかもしれないという懸念もありますが。

そしてもはやアナログマルチテープを回す事が非現実的になってきた今、デジタルの入り口であるADコンバーター、
出口であるDAコンバーターが非常に重要になってきます。
ただ、ここまで挙げた中では費用対効果は比較的薄いのでいきなり投資する方はなかなかいないかと思います。
このあたりの変化はモニター環境がしっかりしていないと辛いのでなかなか導入のバランスが難しい感があります。
MORGでもAPOGEEにはじまり、LYNXを導入し、Prismで18CH導入しましたが、最後はマスタークロックと同時に導入しました。
比較的最終段階で道入しましたがPrismはやはりLYNX等とは比較にならないリアリティーと極上のサウンドを誇ります。
単音でも充分素晴らしいですが、特にトラックが増えてくるにつれてその恩恵をひしひしと感じることになります。
が、実勢価格が円高時期で160万円台というProtoolsHDセット並の価格がしますが…。
こればっかりは価格が高いからいいとかの次元ではなく、好みを超えて聴いてすぐわかるレベルの良さと思います。

前述した費用対効果が比較的薄いというのは特に多チャンネルAD/DAの場合、Prism以外の商品はどれも同じような
技術水準にあり、サウンドの差は好みの域であるためです。マスタークロックも然り。
技術スペック表でもわかりますがPrismレベルとルビジウムクロックは他と比較自体が無意味なほど別格です。
さすがにこれらは費用もかかりますが効果も絶大と言えます。

この精度でレコーディングすると小音量でも非常に存在感のある音源が出来上がるように思います。
ルビジウムクロック等はかなり新しい製品と技術ですので、もちろんまだまだこれから要研究ですが。

このあたりになってハードウェアリバーブも導入しました。
LEXICONのPCM96という現行商品のフラッグシップモデルですが、かなりいいです。こちらは今もUSA製です。
同時にAltiverbもやはりものすごくいいと思いました。プラグインではやはり別格と思います。
リバーブなどは好みですので何が最高とかは無いと思いますがLEXICONの特に上位機種は本当に音楽的と思います。
安価なモデルでもまず1つは使えるリバーブがあるのでオススメします。

そしてこういった環境になると音源をマスタリングで味付けする際も非常に自由度が増したと感じます。
マスタリングに関しては確実にハイクオリティーな機材が必須です。その中でもEQの種類やコンプの種類、
回路によってアプローチやサウンドは様々に変化します。
これを実感する上で、マスタークロックとPrismのコンバーターはもはや必要不可欠と言える存在になりました。

今はマスタリングに関しては機材環境、電源環境、ノウハウ、経験、全てが無くては無理だと確信しています。

そして補足ですが、全部の機材を一気にそろえるのはなかなか難しいですが、どうせ買うならいいものを買ってみましょう。
例えばMORGではNEVE33609がビンテージハイエンドアウトボード導入第一号でした。
今ほど価格が高騰していなかったので比較的安く買えたと思います。(2009年現在国内価格90万円代…。)
そこで豪華一点主義みたいになる事無く、色々な機材を買いそろえていけたのはやはりそのサウンドが本物
だったからだと思います。中途半端な復刻品などに手を出してばっかりだったとしたら今の発展は無かったと思います。
アウトボードが素晴らしいとレコーディングシステムも見直したくなり、ProtoolsもこのタイミングでHDにしました。
正直それまでLEがHDを超える時期が来ると思っていましたが、ちょっとそれは未来永劫無いと今はわかります。
ただ、本当に色々導入しましたが定番機やビンテージでも好み、用途に合わなければ売却していきました。
そうやって実験し、自分の思ういい音の基準確認や機材の使い道のバリエーションを増やしていったわけです。

また、『機材に頼る、頼らない』なんて事をたまに聞きますがのはそんなものは戯言とか素人の談義だと思います。
自分が目指すところ、そのための向上に対して必要な機材を使い、そして熟知しなければどんなにパソコンと
毎日にらめっこしていても、いざ機材に触れてみると満足に使えない状態になります。
『頼る、頼らない』なんてくだらない話ではなく、向上のために経験を積み、使いこなす事が大切なのです。
どんな職種でも本当のプロは道具をちょっと触るくらいじゃなくとことん使い込んで研究しているものです。
本気でプロになれる人間はそういった経験が出来る環境に必ず自らの身を置き、やがて構築します。
何故なら自身が職人として必要な物、向上に必要な要素を把握して自身を常に磨いているからです。
私はエンジニアリングを学ぶにあたり、専門学校に行くという発想ではなく、まず機材を買って、プロの師匠に学びました。
学んだと言ってもほとんど見よう見まねからはじまって、技を盗んでいきました。音大系のの友人とも技術談義を
欠かしませんでしたし、SSLのミキサーがドーンとあるようなスタジオにも見学に行っていました。
そのスタジオオーナーさんも機材ありきの発想は肯定していませんでしたが、思いや目指すところがあるなら
必要だと仰っていました。(かれこれ10年前の話ですが…。)
機材があるからいい音が出るわけでも頼るわけでもなく、自分に必要だから機材があるのです。
(ちなみにこの時期に経営、接客などについても大学の先輩、バイト先のオーナーから同時に学びました。)

これだけの環境を整える上でやはり必要になったのは向上心、探究心です。当然ながら腕を磨き続ける事が必須でした。
レコーディングもマスタリングも入っていない日はメンテナンスや実験をほぼ欠かしていません。
3日くらいまとまって空きが出たら一日やっとオフです。(といっても熱帯魚関係とか大工とか大抵何かしますが…。)
2009年度は5月に入るまで本当に空きが無い状態でしたが強化、実験で格段の進歩と名盤が生まれたと思います。
こういったアーティストと共により良い作品を生み出すための努力を重ね続けていく精神が何より大切なのだと思います。

本当に簡単に『高音質』『プロ』という言葉が垂れ流されていますが、本当にそれを理解し、体現するには多くの経験が
必要になってくることを知らなければ、職人も育たず、音楽の文化は衰退し、アーティストも埋もれてしまいます。

ここで締めれば『ああこだわったスタジオなんだな』で終わるかもしれませんがここからは機材以外の面で思うことに入ります。

ここからは本当に当たり前のことを書きます。

至極当然ですが、まずはいい音を収録するにはまずいい音をプレイヤーが奏でている事が必須です。
技術はもちろん、アクセント等表現の部分が非常に大切です。もちろん録音する側にもそれを把握できるモニター環境を整える
事が必要なのは言うまでもありません。
機材セッティング、プレイヤー、エンジニアのコンディション管理はもちろん、あらゆる状況に気を配っておく必要があります。
いいプレイ、いい出音、いい録り音が揃う事はプレイヤー、エンジニア双方が信頼関係にあるという証です。

ドラムに関しても天井高が高ければいい音で録れると思われがちですが、出音が駄目なら全く無意味です。
力が入ってガシャンガシャン鳴ってるだけの音では出音自体のレンジも狭く表情がつきません。
ドラムは叩けば誰でも簡単に音は出ますが、ドラムをプレイする、録音するとなると反比例して全く別次元の奥深さがあります。
狭すぎるとさすがに無理と思いますがフラッターを廃してデッド目に追い込めば充分いい音で録音出来る環境が出来ます。
ルームチューニングにしても反響や広さ、オシャレさも重要ですが絶対条件はフラッターを出さないことです。

フラッターが出てしまうとどんなに広くても天井高が高くても、機材が良くてもかなりのハンデを背負う事になります。
そしてプレイヤーの技術がなければどんなにいいスタジオであってもある意味いい音では収録できません。
前者は最悪EQである程度補正も出来ますが、楽器の表情やタッチを後で大きく変化させる事はまず無理です。
そして録音の技術がしっかり出来ていないと録り音の段階でサウンドに天井や壁が出来てしまうこともあるわけです。
逆にブースでも設計が良いところでしっかり録れれば天井や壁の影響は録り音から排除できます。

また、エンジニアによってもマイキング等以前に録音される音は大きく変わります。
それはその場の空気や緊張感がプレイヤーに与える影響がプレイに関わる事を意味します。
緊張感がありすぎても、無さ過ぎても駄目ですし、作業が遅すぎたり意思疎通がうまく出来ないなどは論外です。
しっかりアーティストに集中してプレイしてもらえる環境を提供する事はエンジニアの技量として非常に重要な事です。
どんなに仲が良かろうが、例え友人であっても仕事の関係となればしっかりと公私混同せず全力を尽くすのは
どの業界でも同じだと言う事です。

大手メーカー等の場合ディレクターが立会い、アーティストへのアドバイスや空気作りを担当する場合もありますので
そういった現場があれば非常にたくさんのことを学ぶ事が出来ます。そういった機会があればノウハウを吸収しましょう。

いずれテンプレートなど細かく用意しますが録音物の構成表は必須ですし、プリプロ音源もあったほうがいいです。

少なくともこれらの要因が欠けると何らかの問題が発生する可能性は高いと思います。
そして、近年急増したスタジオのほとんどはいずれか、あるいは全てが欠如しているように思います。
それゆえにプレイヤーもなかなか情報を得る事が出来ず、伸び悩んでいる事も多々あるように思います。
これは悪意からではなく、単に知識不足、経験不足が要因になっていると思いたいです。

このあたりはライブハウスの人間がアドバイスを行わなくなっていたり、的確にアドバイスできない
人間が働いていたりするケースにも関係すると思います。
アドバイスをくれるライブハウスやスタジオはアーティストの技術の向上、サウンドの向上には不可欠だと思います。
当然そういったアドバイスをくれるライブハウス、スタジオも多々ありますのでそういったところからいいアーティストは
頭角を現してきます。

また、中途半端なレコーディングで搾取されるくらいなら今や非常に身近になった宅録機材で頑張って、必要な時に
まともなプロの力を借りると言うスタンスを強く推奨します。
最近では個人でもスタジオよりもしっかりとしたアウトボード&技量をもっている方も多いので選択肢は多いです。
必ずしもいつも使っているリハスタのレコーディングサービスが最良とは限りません。

そして世の中のリハーサルスタジオさんが気軽に出来て勉強にもなるような安価なプリプロパックを行ってくれれば
もうすこし業界から理不尽な事態が消えてくれると思います。
関西では京都、大阪にまともな環境でありながらも本当に格安なスタジオサービスが出来てきています。最高です。

参考までにスタジオなら格安の基準は時間2000円台。個人(セミプロ)なら一日10000円くらいが妥当です。
本気の作品を作るならそれ以上の価格帯ははまず個人でプリプロ、作曲環境を整えるか、お金をためて、知識もつけて
しっかりとしたスタジオ選びをしましょう。はじめてのレコーディングであればスタジオの雰囲気を満喫する事と
しっかり基礎のあるエンジニアさんに録音してもらう意味で10h24000円あたりの個人ではないスタジオを強く推奨します。

ちなみに中古で揃えればガッチリプリプロできる機材でも10万円から20万円もあれば揃います。
なので経験も無くいきなり1日5万円のスタジオを3日ロックアウトとかは全然オススメしません。
いきなり名盤が出来るような天才さんや運命みたいなバンドはまず存在しません。要努力と経験です。

そして近代の安価な家庭向けシステムしか使ったことが無い、あるいはアウトボードをほとんど知らないエンジニアさんは
ちゃんとしたプロ環境での作業を一度でも経験(最悪見学でも)してみて下さい。
無い知識、経験の中で簡単に高音質とか、マスタリングとかを謳って中途半端なことをするのではなく、プリプロ及び
格安のレコーディングか、歌録、マスタリング、何に特化してもいいので本物のプロの力を見せられなければ
結局スタジオも最高の作品が作れず、予算も中途半端にかかって結果アーティストが困る事になります。

『限られた環境で物事を行うこと』それは私も含み万人に共通です。

なのにレコーディング=プロと同じようにどこまでも出来るというような勘違いはそろそろ限界を迎えていると思います。

プロなのかセミプロなのか?マスタリングなのかプラグインでの音質補正なのか?
そのマスタリング業者はプレス工場と付き合いがあり、正確な規格で納品できる業者なのか?
もっと言えばProtoolsLEなのかHDなのか24MIXなのか?リハスタなのかレコスタなのか?
BABY BOTTLEなのかBOTTLEなのか?RODEなのかNEUMANNなのか?

これらを多くのインディーズ、アマチュアバンドは知りませんので気にしません。

『本格』『高音質』『高品質』『プロと同じ音』『良音』『最高』こういったキャッチフレーズで均一化されています。

こういった事があるのでクリエイター、バンドが音源制作に関する知識を率先して得ていかなければ始まりません。
スタジオの機材を検索して調べてみたり、色々なスタジオに見学に行ってみるのもいいでしょう。
楽器を買う際にFENDER USAとFENDER JAPAN、カラオケマイクとSM58の違いを調べるのとなんら変わりません。

ざっと書きたい放題書きましたが全ては意識の問題とゴールをどこに設定するかで変わるので参考程度になれば幸いです。

参考までに私は高品質、高音質、人に伝わる音楽、アーティストの思いや狙い、勢いや感動の伝わるような作品作り、
それを適正な価格で提供し、才能あるエンジニアやクリエイターを支援、育成していく事にあります。
そうして育った人材が私の意志を受け継いで独立、MORGや自宅環境で高音質、高品質、感動を広げていければ最高です。

何にでも、誰にでもファーストステップがあり、最初から全てが出来る人なんていません。

MORGも例外ではなく、私がこの10年間を運良く同じ情熱で音楽と言う芸術、産業に向き合い続けられた結果です。
師匠や仲間、友人、家族、色々な人がいたから、色々な思いがあったから今も情熱を持っていられているのだと思います。
情熱はあくなき探究心と向上心を生みます。まだまだこれからもMORGは常に際限なく向上できると確信しています。

よほどのマニアックな方か、業界関係者しかこんな細かいところまで目を通すことは無いと思いますが、
もし行き詰まったらこのページを読み返せばヒントがあるようなそんな更新をしていけるように頑張ります。

2009年5月追記。