レコーディングが順調に進み、収録が完了するとミックスダウンという行程に入りますが、
この際にサウンドは大きく変化します。
各トラックの音の帯域の整理とバランス調整を行い、フィルや盛り上がり、その他セクション毎に対して
流動的なPANやボリュームの調整をオートメーションと呼ばれる情報を書き込むことで操作していき、リバーブや
空間エフェクト類を用いて演出をし、最終的に細部を詰めて楽曲が伝えたいメッセージをよりわかりやすく、
聴きやすいサウンドに整える事が一口で言うミックスダウンという行程です。
間違っても単にフェーダー固定の状態でバランスを取るような作業ではありません。
その際に前述のプラグインエフェクトやEQ、コンプ等のアウトボード類が使われます。
その組み合わせや使い方は実に多彩で、使う人間の数だけ異なる使い方があるというほどです。
これらの機材の使い方、ミックスの手法はエンジニアにより異なり、同じ素材であってもエンジニアの数だけ
異なった仕上がりになります。
最も人的要因が絡む編集作業ですのでもちろん場合によってはマイナス方向に進みかねません。
お任せミックスという作業も近年耳にしますが、ミックスだけを安易にお任せするというのもどうでしょう。
その作品をレコーディングから担当しているエンジニアがしっかりとレコーディング中に意見をまとめ、
演出の要点整理をしてラフミックスが上がった状態からであれば話は別ですが基本的にミックスは音だけでなく
作品としての多くの要素を含むため、基本的にはエンジニアに任せても意見を交わしつつ行うのがいいです。
逆にエンジニアもクライアントがOKを出してもそれがプロから見てNGであれば意見を出し、バランスを取る
事も必要です。こうした相互のバランスのミックスがエンジニアやアーティストを育てます。
何でもかんでもお任せにしていると全然イメージの違うミックスやサウンドを渡されてもエンジニアの
『いいもの出来ました!』という催眠術のような言葉でうやむやにされるケースもあります。
せっかくのレコーディングを台無しにも出来る作業がミックスに含まれるので進行は慎重に行いましょう。
また、DAWソフトによって信号の処理におけるアルゴリズムが異なるため、ここでも音に違いが出ます。
デジタルでのミックスでは演算上の端数の切捨てやエラーにより音が変化するという事や、
アナログ回路で電気的に信号がミックスされる方が音楽的で音が馴染むというエンジニアも数多く、
デジタルが普及した今日では逆にアナログでの信号のミックスが好んで用いられています。
特にプラグインエフェクト類をDAW内で使い、サミングアンプと呼ばれる信号のミックスに必要な機能のみを
搭載したミキサー回路で信号をミックスするという手法が近年急速に広まりました。
これはミキサーを設置するスペースの削除と、DAWで信号を加工できる利点を活かして、逆にアナログ部分では
不要な回路を通さずに純粋に信号をミックスするという双方の利点が噛み合った事に由来すると思われます。
また、こういったアナログでのミックスを行う上で各チャンネルのコンディションと特性のチェックは不可欠
なため、あまりサミング用途では各チャンネル毎に音色のバラつきが出やすいビンテージミキサーが使用される
事は少ないように思います。あるいは特性がメモされ、それを理解したエンジニアが使用しています。
ただ内部ミックスが全く駄目なわけでは決してなく、内部ミックスの方が良いと判断する場合もあります。
これは曲や狙いによって異なります。そして近年内部ミックスもかなり良くなってきていると思います。
ProtoolsHDの場合VCAフェーダーが搭載されたあたりから急激に内部ミックスの評価が高まった気がします。
何度も書きますがエンジニアの技量、傾向、アーティストとの意思の疎通具合でサウンドは激変します。
プロのレコーディングやミックス、マスタリングはエンジニア指定で仕事を依頼し、エンジニアが使い慣れた
レコーディングスタジオで作業をするという事がほとんどです。
これは様々なロスを排除し、レコーディングの鮮度を保った状態でミックスする事にも繋がります。
インディーズでも出来れば安易にレコーディングスタジオを決定せず、担当エンジニアの録音物を聴いたり、
出来る限り打ち合わせを行い決定すると思わぬトラブルや制作上のロスを防ぐ事が出来ます。
また、ミックスとマスタリング(ここでは最終処理の意)は別物として作業するのが当たり前なのですが、
前節のプラグインの普及からミックス中に既にマキシマイザーを強くかけてしまったりマスターにコンプ、EQを使いながら
ミックスするケースがたまに見られます。
ピークを抑える意味でのリミッターであればいざ知らず、マスターを変にいじった状態でのミックスはオススメできません。
やはり煮詰まった作品がある場合はマスターの加工を一旦バイパスして再度ミックスを聴いてみましょう。
ミックス段階完了時に2ミックスに書き出してから2ミックスに対してマスター処理を行う事も有効です。
くれぐれもミックスの完成度を上げる、迫力を出す=トータルコンプでは無い事と常にリミッターがかかったような音に
ならないように気をつけましょう。せっかくの録音が台無しになってしまいかねません。
各トラックの音量や帯域、バランスを調整し、意図した状態に持っていくことがミックスの領域です。
自宅で完結する場合もこれを意識して作業すれば少なからず迷いを減らす事に繋がるでしょう。
MORGではWAVESの各バンドルに加え、主要なプラグインを多彩に揃えています。
当然ながら全て正規品を購入していますのでバージョンアップへの対応もスムーズです。
ミックス用のミキサーにはサミングアンプの決定版といえるSSL(Solid State Logic)の4Uラックミキサーで
16CHのミキサーを構築しています。192IOから16CH結線し、主に4モノ6ステレオバスとして使用します。
内部ミックスが良いと判断した場合もモノチャンネルはモノトラックに、それ以外はステレオにまとめて
経由させるパターンも比較してミックスダウンを完了します。
また、200V駆動で電源ケーブルも超有名プロデューサーも採用実績のあるデッドストックのケーブルを使用。
最終2ミックスはTASCAM DV-RA1000HDにDSD(Direct Stream Digital)形式でレコーディングされます。
この流れを通常の多々あるミックスと差別化するため、MORG独自でSAHD(Super Analogue High Definition)
トラックダウンと呼んでいます。