ブランドで失敗しない多チャンネルマイクプリ選び


多数のチャンネルを使用して録音する場合においては向き、不向きもあるのでそれを説明します。
例えばドラムのような楽器で8CHから10CH以上マイクを立てる場合、同じマイクプリを8CH程使った
場合にも、特徴ある機材の場合8CH分のマイクプリの特徴を受けることになります。

1Khzあたりにピーキーな特性を持つ機材が8CH揃ったらその1Khzがその数分だけ重なって
更にピーキーになると言う事になります。

それがどういう事を生み出すかと言うと、例えばGRACE DESIGN 802等の電気的にハイスペックな特性の
プリアンプがドラムレコーディングの定番になっていないのは全てのチャンネルが均一な高品位な印象かつ、
クリアで主張して録音されてしまう事により、各パートの音像をコントロールしづらいと言う点にあります。

こういったスペックのマイクプリは歌などピンポイントな楽器向きであり、全数使って本領を発揮するのは
巨大なオーケストラのホール録音等になります。(それでも8CH全て使うかは別として。)

同様にNEVE系でもAMEK9098、FOCUSRITE ISAやRED等はかなり主張が強く、歪まずきれいに電気
増幅し、パキッと主張する感じのサウンドですのでドラム等への多チャンネルプリには不向きと思います。
エレクトロ等では逆に面白いかもしれませんが、ピーキーにフォーカスされたものが重なるときついです。

また、AMEK、FOCUSRITEはプリがピーキーなのに対してEQは驚くほど地味でナチュラルな印象です。
恐らくプリの特性を考えて作られているのでしょう。ISA110や215、9098EQなどはEQがついており、
どちらもEQオンでもやや扱いやすいサウンドになります。
(ゆえに9098EQはDMAより手放す人が少ない&ISAのプリのみのモデルの評価が高くないわけです。)

更に考察すると9098DMAにはステレオイメージをいじる機能もあり、そういった機能を付加した事も
ただの派手なマイクプリ以外の用途、商品価値を見出すためだったのではと思います。
そして、こういった機能はホール録音を意識したものであろうことが推測され、リモートコントロール出来る
ホール、放送局向け仕様の9098RCMAを製造した点もそういった用途を決定付けているように思います。

元々AMEK 9098もFOCUSRITE ISAもコンソールモジュールとして設計されているのですが、こういった点でも
やはり卓とは別物です。プリに合ったEQ、コンプが揃ってサウンドの特性が成り立つのでしょう。
そして、卓であったならまず確実にキック、スネア等、要所に何かのアウトボードを使うと思います。

ドラムレコーディングの多チャンネルプリにNEVE系が好まれるのは実はこういったことが理由で、
NEVEはゲインを上げると音像がかなり変化し、アウトプットゲインも調整できるので多チャンネル時に
遠近感や音像を調節するのが非常に楽で、狙いのサウンドに追い込みやすいわけです。

電気的に綺麗に増幅されたものやデジタル処理のボリューム変化は音量感として認識されますが、
OLDNEVE系は音像として認識できるサウンドになっているわけです。これがNEVEマジックなんでしょう。
つまり、NEVEだから使うのではなく、ドラム等の録音に向いているから使われているわけです。

冷静にエンジニアが考えればドラムのレコーディングでAVALONVT737を8CHとか、AMEK9098DMA8CH
とかLIQUID CHANNEL8CHとかMILENNIA 8CHとかに全然魅力を感じないことに気付けるはずです。

あくまでこれらはミキサーに対してピンポイントで使用する目的で設計されている事を思い出しましょう。
そしてアウトボードになっていても卓は別物で、卓はチャンネル間の干渉もあることに気付きましょう。
その点ではスペック的には有利ですし、ドラムのオーバーヘッドのみとか、ボーカルとか、ある程度
主張したいものにピンポイントに使う分にはどれも素晴らしい物ですのでその用途をオススメします。

全てが同じプリで主張すると逆にトータルで各チャンネルが邪魔し合い、無個性になってしまうので、
特にドラムなど1つの楽器に多チャンネル使う場合は表情の豊かなプリやEQを使いこなしましょう。
逆に表情の豊かな機材は応用が利くので一つは持って使いこなせればスキルアップに繋がります。

更に追記すると、OLD NEVE1066や1073の評価が非常に高いため、AMEK、初期FOCUSRITEも好評価ですが、
サウンドは全く違います。AMEK、FOCUSRUTEは似た感じがありますが、デジタル世代、音楽ビジネスの
匂いがします。平たく言えば派手な印象です。もちろん近代機材としてはとてもいい機材です。

※ここで言うデジタル世代を意識した音作りというのが微妙なところなわけです。
かのYAMAHA 02Rですら1995年の発売であり、デジタルへの過渡期にAMEK9098は誕生しました。
当然レコーダーはアナログも多く、デジタルですら低ビットレート、低解像度です。
ゆえにテープで使っても抜けがあって聴こえて、デジタルでも新たなサウンドとして期待される
派手めなプリアンプ部が高評価を得たのだと思います。
ただ、今日ではご存知デジタルの飽和感やとがった感じを消すために色々な努力を皆さんしている
わけですが。(それこそテープシュミレーターを使ったり。)

対してOLD NEVE 1066等は既に完成された芸術作品というべき印象で、メンテされた個体であれば
ビンテージのなまった音ではなく、非常にハッキリとしてかつナチュラルで音楽的な完璧なサウンドを
伝えてくれます。こういったサウンドは産業革命時代の情熱と職人の魂、人類の探究心が成した
まさにマジカルなものだと思います。

ゆえに、OLD NEVEはAMEK、FOCUSRITEより数倍も高く取引されているわけです。

これは希少だとか年代によるものではなく、サウンドでの評価であることを断言します。

NEVEデザインだから9098やISAもOLD NEVEと同じくらいいいとか、ビンテージは状態によるとかで
無知なアーティストに間違った情報を伝えるところもあると聞きますが、極上のOLD NEVEを聴いて、
使ってみて、それでも同じ事が言えるプロはまず存在しないであろう程これらは別物です。
(もっとも1066、1073、33609等はRupert Neve本人ののデザインではないそうですが。)

1066等のデザインをし、特徴あるツマミのアートデザインも行ったジェフ・ターナー氏が立ち上げた
AURORA AUDIOというメーカーがありますが、ジェフ氏の作品は多くのレプリカとは異なり、
オリジナルを設計したからこそできる、オリジナルにこだわらずサウンドにこだわった製品作りで
現行商品では群を抜いて素晴らしいコンセプトでOLD NEVEの血統を受け継いだサウンドを
現代の技術を柔軟に取り込んで放っています。