前項ではレコーディングの内容、本質部分に触れてみましたが、この項ではそのあたりを
違う角度から考えてみたいと思います。
まずはGoogle検索で『激安 レコーディング』と検索すると多くのレコーディングサービスがヒットします。
では、まずはそれが本当に激安なのかを様々な角度から見ていきたいと思います。
前項までを読んでいただければレコーディングというものが音楽を作る行程であり、音楽的経験や
ノウハウが蓄積され、経験が積める場所というように説明しても理解は難しくないと思います。
その点から言ってそれを満たすにはプロのレコーディングを担当している事が比較的必須条件に
なってきますので、激安レコーディングをされている業者さんのキャリアを見れば大体解決します。
ここに聞いたことのないような名前が並んでいたりするとまあまあハッキリわかるのですが、
記載されていないこともあるわけです。
なので、またまた乱暴ですが機材面、謳い文句から突っ込みどころをまずはピックアップしましょう。
これらが当てはまる場合、音楽的向上を求めているような方はちょっと他をあたる方がいいです。
ざっくり機材面…
・ほとんどの場合がProtoolsLE、あるいはProtools9か10(native)です。
そして『業界標準Protools』というように謳っていることが多いです。
プロが現場で使うのはProtoolsHDであり、システム構成も価格もまったく違います。
これについてはまた別項で書きます。(何故”ProtoolsHD”なのか) でも書いていますが。
・自宅スタジオで既製品の簡易防音ブースを入れている。
これも残念ながらすぐに限界が見えます。広いものを入れたり多少は工夫出来ますが、
製品の防音と集音に対する設計上の根本的な方向の違いがあります。
これもまた別項で記載します。
・機材が非常に限られている。
とりあえず機材リストがあったらご確認を。
そしてこだわって機材を入れているように見えても上記ProtoolsがProtoolsHDかどうかご確認を。
ざっくりNG謳い文句…
・プライベートスタジオなので時間を気にせず作業できます。
・何度でもやり直せます。
すいませんがアーティストのリリーススケジュールは待ってくれません。
予定の時間内でタイトなら現場や人員だって増やすほど時間は大切です。
・いくらでも後からテイクや音色を選べます。
そんな時間的ロスいりませんし、その場で演奏、音色、音像、重なり方を見ないってことは
明確な完成形が当事者に無いのでは??
常に完成形を意識していくうえで後から何とでもなんてのはごく一部の装飾パートを
暫定で入れておくくらいの時にしか使いません。
・業界標準!Protools!
これでHDじゃないとか詐欺レベル。
・Protoolsだからプロの音!
ProtoolsHDが入っていても単純にそういう事ではないです。
・インディーズ、アマチュア限定価格!(応援価格!)
ちゃんとメジャー系の仕事で利用されている方ならまあいいんでしょうけど、明らかにアマチュア
相手のサービスでその記載は単なる二重価格表記かと。
・プロのエンジニアがレコーディング致します!
こういうのをわざわざ書いている事がもう疑問。
あなた誰ですか?みたいなキャリアでもプロって名乗れるのはおかしい。
今まで書いたようにプロとはプロと仕事を重ねてノウハウを蓄積した人間を指します。
アマチュア相手のレコーディングをどれだけ回数を重ねても、プロのノウハウは蓄積されません。
・お金をもらっている以上プロとして云々
これは謳い文句ではないですが、上記や前項を見てこれでプロと名乗れると思う方はさすがに
いらっしゃらないと思います。
という感じでざっと書き出してみました。
そもそもレコーディングという音楽経験、専門的な鍛錬が必要な行程に、経験に乏しい人間でもこういった
レコーディングサービスが出来るようになったのは近年のDAWの普及に起因します。
DAWを扱うということがレコーディングではないですし、プロと名乗るにはプロの現場を経験し、
その上でノウハウを蓄積し続けなくてはプロとは言えません。
そしてプロにはプロとしての仕事、作品がキャリアとして世の中に残っています。
同時にレコーディングスタジオとは経験とノウハウを持った人間が寄り集まり、切磋琢磨し、向上している
場所であり、レコーディングとはそういう状況下で音楽作品を創るということです。
そして最初は経験の乏しいバンドも自分の音やプレイにこの状況下でじっくり向き合うことで多くのことを
学び、音楽、音に対する意識を高めていけるのです。
環境、機材面でも、例えば大好きなミュージシャンがいたとして、同じ機材で録音する経験などは
とても有意義です。その上で他のアプローチも試したり、様々な経験がつめます。
例えばビートルズファンが同じ機材をコレクトしていたりするのと似ているといえば似ています。
実際世の中に出ている名盤で使われた機材を使えたりするのもレコーディング経験の1つです。
実際僕が交流させていただいているエンジニア、プロデューサー、ディレクターの方々は
レコーディングスタジオが若いバンドを育てる場所でもあるという認識をお持ちです。
まったくそのとおりと思います。
では、こういった経験が上記のような『激安レコーディング』に存在するでしょうか????
答えは明確にNO!です。
つまりは『激安レコーディング』は『レコーディング』で経験すべき内容が価格以上に希薄であるという、
逆に本質の部分で言えば割高な存在と言えます。
予算が無いとか以前に、他人に発注する以前に、商品だとか、音質だとか言う以前に、根本的な姿勢を
見直せば自ずとわかることです。
あなたがしたいのは音楽を作っていく事なのか、音楽を使ってビジネスがしたいのか、どちらにせよ
本質が伴わない音楽作品には限界があります。
人柄が良くて音源が売れることもあるでしょう。でも限界は存在します。
プロが集まってレコーディングするということは根本的な部分でもっと音楽に純粋です。
こういうレコーディングの本質を理解、経験していないでインディーズと名乗り、当然のようにCDを
リリースしては売れないと言い、何も知らないまま音楽を辞めるなんて本当にもったいない。
ここ近年で出来て、壊れようとするシステムに振り回されて音楽に向き合えないような事態では
音楽業界が衰退するのもうなずけます。
この話は音楽産業や経済、お金の話ではなく、音楽作品を作るという事の本質、文化の話です。
では次項ではここで挙げた機材面で何故『業界標準Protools』でProtoolsHDじゃないと詐欺なのか、
何故ProtoolsHDなのかを『続・レイテンシーについて』という形で書きたいと思います。