MORGの機材研究、実験の色々、機材を使いこなすということとは
MORGではいわゆる名機が沢山揃えられており、日々のレコーディングで活躍しています。
これらの機材はもちろんいい音をしているのですが、MORGでは個体差のチェックや様々なテストによって本当に音のいい個体を所有、状況に応じてメンテナンスを行っています。
いい機材はその機材にしか出せないサウンドを持っており、聴けば何の機材かわかるというものすらあります。
NEVEなどはその最たる例ですし、テープなどの媒体も非常にわかりやすいです。
いわゆる個体差というもので非常に良いとされる個体はそういった求められるサウンドを色濃く持っており、容易に期待したサウンドが得られる個体なのだと思います。
これにはメンテナンスの状況や、コンデンサー、回路のリビジョンにトランスの型番やロットなど沢山の要素が絡んできます。
MORGでは回路やコンデンサーによる個体差を解析、把握するために50モジュールを超えるNEVEモジュールをメンテナンスし、2015年11月現在で1063、1073、1066、31102、31105などEQつきのビンテージモジュールを22本所有しています。
その結果、コンデンサーによる音色の変化やトランスの違いによる音色の差などをかなり把握することが出来ました。
マニアックといえばそうなのですが、そう簡単にいえないほど、特に入出力のトランスによる音色の変化はインターネットの情報やカスタム商品の販売があるほどメジャーなトピックになっています。
MORGでは1176の非常に良く出来たコピーモデルに対して、入出力のトランスや回路をローターリースイッチで選択できる改造や、31105モジュールに対して入出力のトランスをスイッチで選択できる改造を行い、回路やトランスによる音色の変化、いわゆるパーツの音をしっかりと認識できるようにしました。
1176改造機
インプット側はノーマル1176準拠(C3837)、ビンテージ1176に搭載されているUTC製O-12、1176Hに搭載されているIC回路、NEVE1073などに搭載されているMarinair製T1442、出力側はノーマル1176準拠(B11148)、NEVE 31105や3405などに搭載されているMarinair製T1751、NEVE 1081に搭載されているMarinair製Lo2567を備えており、各一つを選択できる仕様になっています。
C3837の明るい感じや、O-12の落ち着いた感じ、IC回路のクリアでハイゲインな印象や、T1442のシルキーさ、高域が派手なB11148、フラットなT1751、圧倒的なガッツあるローのLo2567など、比較無しでは把握できなかったパーツによるサウンドの特徴が掴めるので、目当てのサウンドを容易に体現できます。
PAST31105改造機
回路上NEVE31105と出力トランスのみ異なるPAST製31105のマイクインプット側に元々のSt.Ives製L10468に加えてMarinair製T1444を追加、出力側に元々のTo129に加えてLo2567を追加。
この回路にLo2567ということは回路的にはNEVE1081と限りなく同じになりました。
ここではインプットトランスではSt.Ives製の方が明るいサウンドということがわかりました。
太さはMarinair製と特に変わらず、単純にSt.Ivesの方が明るいサウンドということがハッキリわかりました。
音がやや明るい固体として、MORGではSt.Ives製トランスのものを好んでVocalやSnareに使っていましたがやはりインプットトランスに関係していたことがわかりました。
出力ではやはりLo2567が1176改造機同様に圧倒的なローを付加してくれました。
不思議なものでTo129にしてEQで頑張っても作れないローがLo2567に切り替えるだけで得られることに驚きました。
これもかねてからOLD NEVEサウンドは出力トランスが肝であるという予測を証明したような結果になりました。
今触っている機材のサウンドを何が決定付けているのか、また出力回路に対して入力回路が変わった場合、またはその逆の場合のスイートスポットを探すという鍛錬も積めます。
機材を使いこなすということは、その機材の特性を把握してスイートスポットでサウンドをコントロールすると言うことなんだと思います。
それが体に染み付くまで使い込むと、レコーディングのセッティング時にも明確な意思で機材を選択することが出来、セッティングもスムーズになります。
マイク、マイクプリアンプ、イコライザー、コンプレッサー、何にしてもどういう音でどう使ったらそうなるのかを把握して組み合わせるわけです。
しかし、NEVEモジュールでも1つや2つ使っていても多チャンネルを同時に使ってのリズム録り時のサウンドは経験できませんし、そうやって多チャンネル使ってはじめて僅かなモジュールの個体差や特性もより理解でき、適材適所に使用出来たり、後段のチェーンの仕方が変わってくるので話は簡単ではありません。
SSLにしてもミキサーで多チャンネルのプレイバック信号の調整など、大胆にEQやコンプをかけるような形で使ったことが無ければ良さはなかなかわからないと思います。
多くの機材はやはり所有して何年かが過ぎてから改めて良さを感じたり、再発見したりします。
DTMをやっている方や、個人スタジオなど多くの方がインターネットの情報を参考に機材に興味を持ったりしていると思うのですが、本当に良い機材を入手するのも使いこなすのもなかなかに険しい道ですのでじっくり考えての購入をオススメします。
MORGの場合、エンジニアさんの持ち込みや外部スタジオで気に入ってから探した機材や、デモ機を借りてから購入に至るケースが多いです。
様々な方から機材の相談や売買のお話がありますのでそういった方との情報交換も貴重な情報源であり、貴重な機材の売買の機会でもあります。
ちなみにこれらのことはプラグインにも同様のことが言えます。
プラグインにはプラグインにしか出来ないような細かいパラメーターや複雑な処理を可能にしているものがあります。
こういったプラグインも本当に使いこなすには何年もかかる可能性があります。
その意味ではUAD2はじめ、ハードウェアをシミュレートしたプラグインはハードウェアのユーザーにとっては期待するサウンドと挙動になっているか
明確に判断ができるので、非常に使いやすい製品なのだと思います。
情報に左右されて機材を購入するのも面白いですが、一つ軸を置いて機材を使いこなすということは録音芸術において表現の幅が広がり、その深度も増すということです。
自分が好きな機材を使い込み、好きな音を表現できる機材を探求していくのも音楽の面白いところだと思います。
こういった研究もMORGの担うべき活動の一つです。
単純にいいと言われるものを集めるのではなく、研究し、それらを使ったレコーディングの手法ごと伝承していくことにも力を入れています。
『良い機材でレコーディングをする』と言えば簡単に聞こえますが、それは金銭面はもちろん、相当な情熱と努力無しには出来ませんし、その真意はそれを経験した人にしかわかりません。
また『良い機材でレコーディングする』についてももう少し掘り下げてビンテージのNEVEやNEUMANNなどの『歴史的に長きに渡り良いと評価され続けているビンテージ機材と現代の先端のデジタル技術でレコーディングする』となると言葉の上でも一気にハードルが上がりますが、その必要性や真意もまたそれを経験した人にしかわかりません。
そしてそこにはエンジニアやディレクター、プロデューサー、レコード会社など様々な人や想いがあるということもそれを経験した人にしかわからないのがレコーディングの面白いところだと思います。
機材の使いこなしも自己の使いこなしも日々の鍛錬と研究です。
また経験を積むだけでなく、そこで自ら研究、探求することではじめて経験が身につき、それが技術になります。
それを若手に体現させていける環境を作るのもまた、MORGとして、スタジオとしての責務と考えています。
今後もより一層の研究に励みたいと思います。
2015/11/20