音楽製作、レコーディングにまつわる誤解の蔓延


ここでは音楽製作、レコーディングにおける誤解を整理してみたいと思います。

技術的な誤解に関してはそれこそこのコラムを書き始めた時点から書いていますので
ここではちょっと違った観点から書いてみます。

まずはアマチュア、インディーズのレコーディングに関して特に顕著と思われるのが、
『今のバンドのベストを収録する』みたいなところだと思います。
文字の上ではそんなに間違っているということはないのですが、これがバンドのディレクション、
バンドのサウンドメイク、バンドの取り決めやフォーマットに則った進行なんかだと問題です。

レコーディングは自分の音やプレイ、音楽にものすごく向き合う時間です。

ここには間違いなく他人の意見も必要になってきます。
そしてレコーディングを円滑に進行し、最良の結果を出すにはやはりレコーディング経験豊かな
エンジニア、ディレクター、プロデューサーの存在は不可欠です。

しかしながらこういった時にアマチュア、インディーズの場合はディレクター、プロデューサーが
居ないほうが当然多いわけです。

そもそもレコーディングエンジニアを決めてエンジニアがスタジオを決めるなんて事は
もっと無いので、レコーディングスタジオのハウスエンジニアに多くが求められます。

ではまず果たしてアマチュア、インディーズバンドのレコーディングばかりしていて
どこまでハウスエンジニアのスキルが磨かれるでしょうか?
ましてやごく限られた機材の使用経験から来る発想力でバンドに提案できるでしょうか?

こういった話も今まで散々書きましたが、では、いつからこんなことになったのかと考えると、
やはりデジタルMTRの出現とCD-Rが出現した時期あたりだと思います。

これが1996年。
1996年といえばProtools24も出ていません。
やっとYAMAHAの02が出てデジタルレコーディングが低コスト化した時代です。

が、待ってくださいよ?

ということはまだデジタルレコーディングが身近になってアマチュアがレコーディングを
プロと同じ事をしているかのような感覚で行っている現在までわずか16年しか経っていない
わけです。

ProtoolsHDが発売されたのが2002年ですからまだ10年ですよ。
MORGは2002年に発足、ProtoolsHDは2005年に導入です。
ProtoolsHD導入まではミキサーを使ってましたし、それが当たり前と思っていました。

つまりレイテンシーを気にせずにデジタルレコーディングが出来るようになったのは
この10年ほどの話です。

それが今ではやれ低レイテンシーと言って前項で比較したようなスペックの民生機が
大量に出回っているのが2012年です。

これって今ほとんど見なくなったデジタルMTRがめちゃくちゃ売れていた時代の次に
やってきたわけですが、さあこれからどうなるか。

ちなみにアマチュアインディーズ対象のレコーディングスタジオ、個人の自宅で行う
レコーディング、ミックス等のサービスなんてそれこそこの10数年前から増殖しました。
で、勝手にプロプロ名乗ってオリコンチャートに一作品も入っていないようなエンジニアが
『レコーディングエンジニアやってます!』って言って名刺を配るようになりました。

プロ用機器もほとんどがコンシューマー、セミプロ用途のようなもので、革新的なものは
数えるほどしか発売されていないように思います。

で、この10年ほどをソフト面から見ると、やはりインディーズのありかたが大きく変わった
と思います。
今やめちゃくちゃ有名なアーティストもインディーズだったり、メジャー各社がインディーズ
レーベルを持っています。
コンテンツはアマチュアインディーズでそこそこ数字と実績を出したバンドに声をかけて
育成からメジャーデビュー。
最近ではニコ動、コミケなどのカルチャーにまでメジャーが手を出す始末。

もうそもそものコンテンツ制作はおろか、人材の育ち方なんかもずいぶんと変わったもんだと
思います。

レーベルがあって、先輩がいて、後輩が先輩を見て育ってみたいな文化も当然残っている
んでしょうけども、育成期間が短かすぎたり、契約期間が短すぎたりでそういった文化も
ずいぶんとなくなったように感じます。(関西では元々少ないですが。)

で、整理すると、これらを踏まえて考えると世代の断絶やそもそもの歴史的な浅さが
完全にシーンを後退させているように思います。
こういった近年の出来事があたかもずっと続くような、そんな誤解の中でより多くの誤解が
生まれていっているように思います。

バンドをやる→オリジナルを作る→レコーディングをする→アーティスト写真を撮影する→
ジャケットを作ってCDプレスする→CDを流通する

みたいな流れや、PVを撮影するということを形だけやってもそれが売れるなんて事はありません。

『なんかわからへんけどめっちゃ売れてん!』みたいな人見たことあります????

可能性が無限とか、やってみないとわからないなんていうのはこの場合ちょっと違います。
単なる経験不足にすぎません。

これに関しては仮にめちゃくちゃいいバンドがいたとして、そういったバンドにはちゃんと
それにふさわしい人材が寄ってきてサポートしてくれます。で、売れます。

誤解はちゃんと解決して向き合わないと結果的に経験を大きくロスし、大きな経験のロスは
自己形成のロスに繋がり、自己形成のロスは当然人生に大きく関わってきます。

ちなみに1996年当時僕は学校の先生を目指してましたが、1998年に演劇で衝撃を受け
劇団に入り、そこで出会ったOSMのOBや音楽作家に影響されて音楽に転向、作曲などを経て
インディーズレーベルの立ち上げに関わり、その後MORG発足。
当時は一曲完パケまでで1万円とかでやってました。
幸いにもレーベル立ち上げ時に知り合った師匠がまともなスタジオの出身者であったこと、
周りの友人が数多く今も一線でヒットを出しているという、今思えば恵まれた環境にあったこと、
とても尊敬しているレーベルの仕事を任せていただき、素晴らしい方々に出会えたこと、
本当に恵まれていると思います。

ずいぶん表題から脱線したように思うかもしれませんが、音楽製作、レコーディング共に
本質の部分はこういった成長できるか、いい経験が出来るか、というような話であり、
そこに生まれる感動がパッケージされ、その後の表現にも反映されるということです。

そして、機材や技術の話をしている項でも書いているのはこの部分です。

限られた経験をいくら積んでも、知らない経験は永遠に知らないままです。
音楽を作る、それで生計を立てる。
それは探求し、己に向き合い、真摯に経験を積み続けていないと難しいことと思います。

では、次項は『これから音楽で生計を立てていこうと思っている方へ』として書いてみます。