OLD NEVE & CLONE他プリアンプ解説


音楽業界の伝説的名機NEVE1073。
レコーディングを少々かじった人でこの名前を知らない人はいないであろう機材です。
このNEVE1073をコピー、あるいは意識した商品は数多く存在し、現行品であってもOLD NEVEを意識した
商品が売れ線の商品になっています。
さすがにUREI1176程何十台も比較する機会は無いのですが、今回モジュールを追加した事で
より比較しやすくなったため、記事にしておきます。

まず今回追加で導入したOLD NEVE1073の内部写真がこちらになります。

1073

ゴールド接点のステップゲインスイッチ、EQ、フィルターが並び、緑のマリンエア製マイクトランス、ライントランスが
それぞれに付いており、赤茶色の大きなトランスがマリンエア製アウトプットトランスです。
良く見ていただければモジュール中央のフレームにコネクターが付いており、基板カードを差し込む設計に
なっていることがわかります。

それぞれのカードにパーツが搭載されており、計5枚の基板カードが搭載されています。
簡単に取り外しが出来るので組み立てはもちろん、メンテナンス時も非常に効率的です。
パーツが多くなってしまうディスクリート設計において非常に合理的な作りと思います。
ちなみにOLDのAPI550等は1073以上にパーツが密集しており、メンテ時にゾッとします。

入力のインピーダンス変更ですが、VINTECH等のメーカーサイトでOLD NEVEにはない機能とされていますが、
しっかりメンテされ、ラッキング用に抜き出されたモジュールならば大抵付いています。
少し上の写真の1073モジュールの背後にあるスイッチが切り替えスイッチです。
ちなみに8CHラックは非常に奥行きが深く、天板が無いのでマウント状態でも簡単に変更可能です。

OLD NEVEは壊れやすくメンテも大変と巷では言われていますが、そう言っている方で実際にOLD NEVEを
所有あるいは一定期間愛用しておられた方はあんまりいないんじゃないでしょうか?
ただ、壊れやすいというか、この基板モジュールが輸送時などの振動や衝撃などでずれたりすると、
音が出なくなったりと異常をきたします。1272も同様です。
初代ファミコン、スーパーファミコン、メガドライブ、NEO-GEOカセットと同じ感覚です。
モジュールの天板は簡単に外せますので、しっかりカードを差し込めば普通に治ります。
これを故障としてカウントするなら壊れやすいと言われても仕方ないですが、そんなに頻繁に起きる事は無いです。
電解コンデンサー等もちゃんと音を維持した状態でリキャップできますので、安心です。
とはいえ、メンテナンスは現行機器より慎重です。真空管ギターアンプよりは手がかからないくらいです。

コピーモデルについては、Brent Averill、Vintech Audioが特に有名で、AMS NEVEからも復刻されています。
Chandler Limited、Great River、Chameleon Lab等にもコピー品や1073を意識した製品があります。
ビンテージではNEVEのメンテナンスも行っていたSHEP社もモジュールを販売していました。
オリジナルの設計者であるジェフ氏もAURORA AUDIOを立ち上げ、製品を発表しています。

AMS NEVEとBrent Averillはモジュールタイプの完全コピー品がありますが、他のメーカーにはありません。
Brent AverillはOLD NEVEモジュールをリキャップしていたことでも有名で、1272を1073同様のマイクプリに
改造したことであまりに有名です。
初期のBrent Averill製品やSHEPの製品はオリジナルのモジュールや、トランスが使われています。

shep1073

恐らく日本で最も普及しているであろうNEVEクローンはVINTECH AUDIO製と思われます。
Brent Averillより安価で、EQカーブの一致やブラインドテストの結果を公表している事が普及に
繋がっていると思われます。

X7303

MORGではじめに導入したのもVINTECH 273でした。
OLD NEVEを多チャンネル導入した今もVINTECH473をドラムのタムに愛用しています。
VINTECHは正直あまりOLD NEVEに似ているとは思わないのですが、非常にハリの有るサウンドで、
楽器のアタック感をつかみやすいいい製品だと思います。
ただ、難点がありまして、VINTECHユーザーは必ず確認していただきたいのですが、
位相スイッチがどちらの向きで正相かを確認しないと本当に固体で異なります。
ちなみにMORGの473はCH1のスイッチが逆になっています。
本当にハンドメイドらしく、仕方ないのかも知れませんがかなりの頻度で間違っています。
273も2台で正相のスイッチが逆でした。

恐らく廉価版ラインのDual 72やX73iに関してはハンドメイドではないのでこの心配は無いと思います。

ちなみにX73はOLD NEVE同様の同軸式ロータリースイッチが搭載され、最高級のパーツで構成されています。
X73iはコンシューマー向きモデルで、より生産効率の良いプリント基板を使用し、基板上に固定抵抗をのせて
ゲインを切り替えています。この点に関してはSHEPも同様、基板上に抵抗を配置していますので、
そこまで劇的にサウンドに影響は無いかと思われます。(AMEK9098も同仕様。)

x73i

X73iは一度聴いただけなのであまり詳しく書けませんが、モダンというか普通の現行機器の音という感じです。
こうして並べて比較するとX73iにはライントランスが無いことがわかります。
これについての説明は見たことないですが、恐らく抵抗を挟んでマイクトランスを兼用しているのだと思われます。
メーカー側でこういった情報が公開されていないあたり、あくまで廉価版としての対応なのでしょう。
特に気になる点といえばやはり入出力端子が基板経由でかなり細いフレックスケーブルなのが…。
ちょっとハンダが出来れば簡単に改造できそうですがそうするくらいなら多分X73買ったほうがいいですね。
本物の1073、SHEP1073、X73、X73iと並べてしまうとちょっと時代の流れを感じずにはいられませんが、
やはり職人魂が感じられる機器のほうが強く惹かれるものがあります。

上位機種のX73もそうですが、VINTECHはあまりハイゲインにすると少し耳に痛い帯域が出てきます。
このあたりがOLD NEVEと決定的に違うところですが、組み合わせ次第で元気なサウンドと認識させる
事が可能です。コピーというよりNEVEフレイバーのオリジナルという印象です。
また、現行品でハイゲイン時に痛くないのはAURORA AUDIO GTQ2mk3と思います。
AURORA製品はGTC2もそうですが、物凄くOLD NEVEに似た音がします。
オリジナルの設計者が設計したとはいえ、回路設計は全く新しいのにOLD NEVEサウンド。

この点から考えるにやはりトランスがかなりサウンドに影響を与えているのは間違いなさそうです。
そしてやはり音楽同様、製作者で大きくサウンドが変わるというように感じてしまいます。
これはSOUNDELUX(現BOCK AUDIO)のDAVID BOCK氏のマイクでも痛感しました。
トランス、職人のハンドメイド。このワードがNEVEサウンドの鍵ではないでしょうか?

ちなみにロータリースイッチはかなり(日本円で5万円位)のコストがかかります。
だからかどうかわかりませんが、609CAのアウトプットゲインもオリジナルに反し、スイーブ式です。
MORGでは某技術者の方とセカンドスタッフの協力のもと、最終アウトプットゲインを1dbステップの
ロータリースイッチに改造し、チャンネルのマッチングを行い、マスタリングバージョンとしています。

609caop

セカンドスタッフは機材のカスタム化に早くから力を入れておられる素晴らしい会社です。
MORGではGRACE DESIGN m904もカスタムしていただいています。

Chandlerのコピーモデルは残念ながら触れる機会に恵まれていないのですが、
ゲルマニウムシリーズとTG-1の出来から考えれば最もOLDらしさを期待してしまいます。
ゲルマニウムシリーズ、TG-1共に本当に名作と思います。

OLD NEVEの素晴らしいと思う点は、やはり単純にパッと聴いていい音と思える印象の良さです。
非常にバランスが良く、シンバルであろうと、声であろうと耳に痛い帯域を見事に抑えてくれるのに
決してコモっているわけでもない抜けるサウンド。
シルキーという表現はここから来たのだと確信できるサウンドです。
個体差もあるかと思いますが、1066、1073、1272、31102、SHEP1073いずれも抜けがいいです。
31102のみセントアイビスのトランスですが、最も高域が伸びてやや近代的な印象です。

3110201

やはりトランスでかなりサウンドの傾向は変わるのだと思いましたが、同時にセントアイビスも
凄くいいと思いました。
ただし、当時セントアイビスは精度にムラがあったらしく、数多くのトランスが規格に満たなかったそうです。
ですのでマリンエアほど単体で売られていることも少なく、リスクも非常に高いです。

当初VINTECHから入ったNEVE系プリですが、現段階でOLD NEVEと印象が最も近かったのは
先にも挙げましたAURORA AUDIOの製品でした。
また今後もMORG以外のスタジオの機材コーディネート時にでもメーカーからお借りして他社製品も
比較検証していきたいところです。

OLD NEVEはとても高価ですが、しっかりとしたルートで買えば状態も良く、本当に素晴らしいです。
元大手スタジオ勤務の知人も新規スタジオの機材でまず第一声で挙げたのはOLD NEVEでした。

高い、メンテが大変、コピーを持っているという理由で敬遠されている方も、一度はスタジオ等でそのサウンドを
経験されるといいと思います。OLD NEVEの経験がよりコピーの使い方向上にも繋がるはずです。