宅録環境?プライベートスタジオ?スタジオとは


近年多くの大型業務スタジオが閉鎖し、Protools、ハードディスクレコーディングの普及により、エンジニア、
アーティストが自らの製作、レコーディングやミックスのためにスタジオ環境を整える事が増えてきました。
大掛かりなものだとスタジオを単体で作る場合や、自宅の地下や一階に本格的な防音を施したスタジオ、
ProtoolsHDやアウトボードまで満載のスタジオもプロではよく見かけます。

それと同時に宅録機器も非常に安くなり、何とProtoolsM-PowerdシリーズではProFire2626が6万円台まで
下落し、一昔前で30万ほどしていたインターフェースと同数のIOを手に入れることが出来るようになりました。
これはアーティスト、エンジニアにとってみればものすごくいい事と思います。

波形編集にProtoolsLEを使うスタイルは業界でも珍しくなく、メジャーセッションでもそういったスタイルの
製作は行われています。(ただし、プロの場合ほぼメインの作業場があってのサブ環境ですが。)

ただ、これによってプライベートスタジオと言う言葉が物凄く身近になったような気がします。
今まで宅録機材と呼んでいたものがプライベートスタジオとその名前を変えるとあら不思議。
普通にスタジオとして顧客をとって営業できるような気になってきます。
これらには一昔前に宅録環境と呼ばれていた規模のものも含まれているのですが…。
一昔前なら仲間内のレコーディングを格安かご飯とかでやっていたような音楽文化の一部ですね。

実際自宅環境で個人事業をされている方も多くいますが、内容はまさにピンキリです。
自宅に防音室を入れている方もいれば、防音は特にせず、そのまま民家の方もいます。
ProtooleもLEやM-Powerd等の民生機の方もいれば、ProtoolsHD、NUENDOなどの方もいます。
NEUMANN U87やU67、OLDNEVE規模の機材の方からRODE NT2、インターフェースのHAの方もいます。

ただ面白いのはどれもスタジオ、あるいはプライベートスタジオと呼ばれていることであり、
営業を行っている方は大抵自称プロとなるところにあります。

果たして民生機しか使っていない人間がプロと名乗れるのでしょうか?

私の知っているプロは師匠も含み、レコーディングの歴史を少なからず経験していて、ノウハウと
経験を蓄積し、それらから来る柔軟性と謙虚さ、探究心を持っています。
MORGもNEVE33609より後にProtoolsHDを導入したほどLEで頑張りましたが、無理でした。

恐らくプロと名乗って活動するエンジニアが言うスタジオというものはまず向上できる場であり、
プロの仕事として自分の守備範囲をキッチリこなせるだけの環境を指すのだと思います。
はじめから足枷があったり、自分の仕事として守備範囲を満たせない環境は単にレコーダーや
DAWがあるという状態に過ぎないのだと思います。

MORGは現在ProtoolsHDですが、正直LEやM-Powerdでは根本的にミックスは無理です。
プラグインレイテンシーの補正にあまりにも時間がかかってしまいます。
確かWAVES社のプラグインマニュアルにはレイテンシーが表記されていましたが、位相などを考えると、
要はその分波形を前にずらす必要があるわけです。

正直CUBASEやNUENDOのほうが遅延補正エンジンがある分断然使いやすいです。

他にも最大トラックに制限があったり、VCAフェーダーやボリュームトリムが無かったり、制約がきついです。
プロでLEラインを使ってミックスしている人はまずいないんじゃないかと思います。
少なくともHDがあるなら間違いなく、何のためらいも無くそちらを使うでしょうし。
高価とはいえ、まっとうに仕事で使うと言う事と、車を買う事を思えば出せない額でもないはずです。

要はプロとして他人様の音源に関わり、対価を頂く以上、プロと名乗れるだけの手腕はもちろん、
対価にふさわしい環境も用意しなければいけないと私は思います。
何度も書いていますが逆にそういった環境での修練無しにプロの職人になんてなれるわけがないです。

MORGではこのように色々な事を書いていますが、これは自身がVS1680から始めて現在に至るまで、
ガチで10年かけて修練を積んできた経験があり、その上でその経験から参考になることがあればと思い、
長々と書いています。

最近はブログなどでも色々と書かれる方がいるようですが、MORGはこのPOLICYにログを残します。

既に書いたようにProtoolsHDなんて要らないと思っていた時期もありましたし、プラグインに過剰な期待を
持っていた時期もありました。LEと高級コンバーターの組み合わせで限界までやっていました。

CUBASEもVST3.7から始めて5.1まで使っていましたし、ProtoolsLEはVer.5.2と001からスタートです。

RolandのVS1680でもう普通にCDが作れると思っていましたし。

ただ、その状態で今みたいな事は全然語れませんでしたし、考え自体が甘かったと思っています。
もっとも価格もCUBASE時代で一曲完パケまでで10000円とかでやっていましたが。

その頃から比べるとスペックは数十倍に、サウンドも常に向上していますが、価格はその頃の約4倍です。
(MORGでは大体一曲あたり40000円で完パケしています。編成が少なければ30000円とか。)
これは業務としては投資と利益率を考えればありえない非効率さです。

逆に言えば本当にトップメジャーアーティスト、世界の一流ミュージシャンと仕事をするプロに求められる
技術及び機材環境のスペックはそれほどの高水準のレベルにあるということです。

何度か世界レベルの奏者のレコーディングを経験しましたが、彼らはめちゃめちゃいいプレイをします。
おおよそ最高と思えるパフォーマンスを前に、最高の状態で収録したいという欲求がでるのはプロの職人
としては当然の感情なのではないでしょうか?

彼らは世界の一流スタジオや途方も無い予算の中でのレコーディングも経験していますので
ハッタリは一切無意味です。
そういったミュージシャンとの仕事は非常に刺激があり、技術、機材などの制約に直面したりしますので、
自分の現在位置を如実に把握させてくれます。

こういった点でも本当のプロとアマチュアバンド相手にプロと名乗るレベルとは天と地ほどの差があると思います。
こういった経験はそういう超一流のアーティストと運良く仕事をすれば一発で思い知ります。

高級機材を入れているのは高いから売りになってお客が来るとか、値段が上げれるとか、そんな事じゃなくて、
自分がアーティストと共にいい作品を作り、後世に残るような作品を手がけたいと思ったうえで必要だから
導入しているだけです。また、好みによってかなりの機材を取捨選択し、吟味して置いています。

今MORGにある機材は本当に満足いく、世界レベルのセッションでも関与できるクラスであり、
様々なトッププロエンジニア、プロミュージシャンとのセッションで多くの技術を教わり、何とかプロとして
ようやく、本当にようやく何かを掴めた実感があります。

また、その上で個人的に友人のスタジオ、素質のあるミュージシャン、エンジニアに膨大な機材を貸しています。
業界の活性化、正常化、アーティストが音楽活動をスムーズに行える事。それが望みです。
嬉しい事にそれらのミュージシャン、エンジニアはいい結果を多く残してくれています。

MORGには自分のこだわりや到達点に向かい、そこから先に進むために必要な分の機材があるだけです。
そして公開していないだけでMORGと同じかそれ以上に機材を持っている個人スタジオは存在しています。
多くの友人、仲間がいてこうして日々努力が出来るというのは本当に幸せです。

MORGは住所、電話は非公開、特定の紹介者が無ければメール以外にコンタクトが取れないという
経営上普通はありえないスタイルですが、ほとんどの仕事はアーティストからの紹介です。

この事からも高級機材が思うほど売りになんてならない事を経営者の為にも公言しておきます。

というかプロのスタジオとか業務スタジオを名乗る以上ある程度機材は揃ってないとそもそもおかしい話ですが。
激安レコーディングとかで検索すると結構ヒットしますが、機材が民生レベルで激安を名乗る場合と、
機材、環境、立地、人材全部揃って激安の2パターンがあります。本来後者が正しい意味と思います。
先にも述べたようにレコーディングにおいて専門の環境も人材もあって当たり前なのが本来の形ですから。

マスタリングにしてもプラグイン主体でアウトボードがあっても電源、AD/DA、クロックの整っていない環境で
ORANGE、Bernie Grundman、サイデラ等のマスタリングと比較する、あるいはそれらメジャーなマスタリングを
利用した事のあるクライアントからの依頼が来るでしょうか?

MORG担当のレーベルはそれらメジャーなマスタリングも利用しているクラスのレーベルがほとんどです。
つまり、安いと言う以前にクオリティーを高めないとはじめから成り立たない顧客層も抱えているわけです。

とはいえ、機材が無いところからスタートしても、スタジオを行き来して、柔軟な思考と経験を積んで、
まじめに腕を磨けば機材も増えますし、いい作品が出来れば作品も評価され、話題も広まります。
その時できるベストを真剣にアーティストとこなすまでです。

ただ、人様の目に触れる場所で云々言うほどこだわるっていうことは相当覚悟が要ります。
MORGでモニター環境にこだわった際、アールズの大傍さんに大口径のJBL、AMCRON K2を相談して購入し、
FOSTEX NF1Aを調整していただき、セッティングも当然お金を払ってしていただきました。
電源ケーブルもマッチングを取っていただいたものを購入して使い、こだわっていたつもりでした。

しかしながらぶっちゃけた話、今使っているMUSIK RL906に変えた方が物凄く良かったわけです。
価格にしてペア実勢10万ほどと50万ほどという大きなコスト差があるわけですが納得でした。
実際大傍さんも(というか日本の業界自体)MUSIKの評判は高いですが、まさに想像以上にいいです。
当然ながらセッティングに関しては大傍さんのセッティング時の注意事項を参考にしています。
年内にラージモニター入れ替えと埋め込みの工事を予定していますので、その際大傍さんにセッティングを
依頼しようと思っています。

また、60万以上するようなハイエンドなマイクも実際聴いてみて、使ってみて初めて知れることばかりです。
関西でそのクラスのマイクを存分に比較できるような場所はあんまりないと思いますが…。
私はお世話になっているJUNCTION MUSICに日帰りでT47等、諸々の機材を試聴しに行ったくらいです。

マスタークロックにしても、YAMAHAのディレクターさんからルビジウムがいいですよと言われても、
結局半年も経ってから導入して驚愕しましたし、こだわるっていう言葉はいい加減なもんです。

こだわりって一口で言うのは簡単ですが、最高レベルの機材を使い込んでみないとわからない領域があって、
その域になってはじめて職人の気概に魅せられて、自身の職人魂が揺さぶられるような気がします。

追求して、プロとしてアーティストと迷い無く作品を作っていくと言う事は簡単なことではないですし、
実際日常的にそのレベルのこだわりに達していない人がさらりとこだわってますと簡単に口にする
もんじゃないとその時思いました。で、MORGはとことんこだわってやろうと思ったわけですが…。

『こだわっています!』と言えばどんな人でもこだわってるんでしょうけども、どこまで出来るかはその人の
情熱なり、度量によって決まってきますからある意味どのくらいこだわっているかがわかりやすい環境なり、
機材リストっていうのは僕は結構信用できると思っています。実際こだわりや好みがわかりやすいですし。

念のためMORGは研究、育成、外部エンジニアの使用、私的な使用を想定しており、一般的な業務スタジオと
比較すること自体間違ってますので、うちがこだわってるとかどうこうでなく、用途に応じてスタジオを選ぶ際に
必要な機材や施設があるかどうかを確認してくださいねって事です。

参考までに僕が個人的にお付き合いのある限りで、誰もが知っているレベルのミュージシャン、エンジニアさんと
レコーディングの話をすると、もれなく機材や環境の話、電源、電圧の話すらバンバン出てきます。
ミュージシャンでありながら下手なエンジニアより機材に詳しかったりするくらい『こだわっている』わけです。
まあプロの世界は完全に職人同士の仕事なわけですからそれこそ当然そうなって当たり前な環境ですね。

それがインディーズになると必ずしも一線のプロレベル同士のお仕事ではないわけで、プロの世界で必要ないものが
必要であったり、必要なものが無かったりして、知識、経験も浅い範囲で共同作業を行うわけです。

それでももちろんお互いに『こだわっている』わけです。

この構図は面白いもので、どちらかこだわりや知識量が大きい方に、それらが劣る側が影響されて意識レベルが
上がる傾向にあります。どちらかがプロの世界を実際知っている人間であればなおさら顕著です。
こだわるという事はプライドを持つということにも繋がりやすいですが、下手なプライドより柔軟さと謙虚さが
実際一番大切で、向上するために必要な要素だと思います。

ついでに言えばインディーやアマチュア相手の場合は特にどんな活動をしてるかとか、出ているライブハウスや
対バンを聞いて、どんなバンドと合うかとか、どんなライブハウスに出たらいいかとか、どうやって回収するかとか、
そういうレコーディングした後のリアルタイムな認識と筋道作りもこだわって欲しいものです。

MORGは関西圏ではHOOKUPRECORDSと連携して情報交換などをしています。

また、MORGの価格が安いのはインディーズバンドがCDを販売して、頑張った事を実感できるだけの利益を
出せるだけの予算で音源が製作できるコストから算定するとこの額が限界だからです。
MORGの顧客において価格で選ばれた事はただの一度としてありません。値引きもしていません。

こういった苦労と発展を経験していないのにウンチクを書く気には全くなれません。
そしてこのようなウンチクは僕の知る先輩エンジニアは当然の事として理解しています。

個人的には民生機を使い、プライベートスタジオと銘打って、プロを名乗り、時間制限が無いだのを語る
業者には疑問も感じざるを得ません。プロやスタジオと名乗っていないレコーディングサービス
ならわかりますが、スタジオ=プロがいると普通の人は思いますので。

ただ、このスタイルはファーストステップのアマチュアに対してのみはある種いいのかも知れませんが。

アーティスト、レーベルの限られたスケジュールの中でキッチリ形にするのがプロです。
アーティストにはライブ、取材、作曲など仕事は山ほどありますし、レーベルも販促、ライブサポートなど
時間制限のある仕事は山積みですので、その流れの中にレコーディングという行程ががあるということを
まず理解しましょう。

一日でバンドをレコーディングからミックス、プリマスタリングまでパケるなんて今はザラにあります。
だからこそ機材もブースの数も有効に使えてエディットもミックスもマスタリングも早く、迷い無く出来る
環境と能力がスタジオやエンジニアに求められているわけです。
そしてこういったケースは何も予算が無いわけではなく、時間が無いというケースもあるわけです。

そして、アマチュアではなく、インディーズとして活動するならそれらの流れを理解して、鍛錬する事は
必須事項になります。曲を書くのが遅いとか、レコーディングに時間がかかるとかそんなのはレーベルから
すれば全く持って論外です。これはスタジオ、エンジニアサイドにも言えることですが…。

どんなターゲットにどんなサービスを提供し、それがどんな結果を生み出すのか。
それをしっかりと考えて、様々な経験をして、はじめてスタジオは成功しますし、クライアントとしても要望に対して
的確な選択が出来ると言う事は何を成すにしても必要となる事です。

アマチュアでもインディーズでもメジャーでも時間は有限です。時間切れになるような状態でレコーディングを
はじめる事、ペースマネージメントをレーベルやエンジニアが出来ない事がそもそもの問題です。

こういったことは少しづつ認知されてきたためか、時間制限無しのスタイルは減ってきたように思います。
まあ一曲10000円で制限時間無くやっていた頃は結局僕もわかっていなかったということです。
当時は膨大なトラックでも切り貼りしてテイクを繋いでタイミングやピッチを合わせる事に多くの時間を
費やしていて、それをウリに思っていたように思います。
今はしっかり準備をして、できるだけ細かな確認をし、レコーディング時の音作りに時間をかけています。
同時にブースを活かしたドラム、ベース、ギターの同時録音等、効率も高めています。

時間制限が無い。

それはいつ終わるかもわからない、明確な出口に向かって集中加速する瞬間を持たない
とても退屈でクリエイティブとはいえないスタイルと思います。
レコーディングからしっかりイメージを持って完成を目指す。これは集中力、瞬発力なくして成し得ません。
プロのエンジニアは断じて中途半端で時間切れですなんてぬるい事は言いません。

そんなことをすればプロと名乗れなくなるどころか半端な仕事が自分の仕事として世に出ることになりますから。

MORGは断じて宣伝でこんな事を書いているわけではありません。
そして、代表である門垣良則が10年間で経験した事に100%忠実に書いている事を保証します。

一介の文系大学生からメジャーミュージシャンやメジャー作品、インディーズオリコンチャート上位アーティストを
担当し、スタジオを作り、個人で数多くの名機や厳選されたハイエンド機材を所有するに至った人間はそう多くないと
思います。それゆえにこういった経験からくる話題が若手エンジニア、同業者さん、アーティストに何かの参考に
なればと思っております。

世界は常に変化します。その一部である音楽業界も当然変化します。
メジャー、インディー、アマチュア、それぞれのセッションワークの中で日々思うことが何かの役に立てれば幸いです。