何故“ProtoolsHD”なのか?


近年コンピューターの進化と共にCPUベースのオーディオインターフェースが発表され、
多くの宅録ミュージシャンがハードディスクレコーディングシステムを導入しています。
それに伴い、出資を抑える意味でProtoolsLE(標準32tr、最大96k、CPUベースのProtools簡易版)を
使ったアマチュア向けのレコーディングスタジオも見かけるようになって来ました。
宅録でのProtoolsLE、NUENDO等、他のDAW(digital audio warkstation)ソフトユーザーはアンチProtoolsHD
の方もいるように思いますが、実際のプロはProtoolsHDを必要不可欠と考える人がほとんどです。

あげくアンチの方の中にはProtoolsHDは音が悪いと言う人もいますが、クロックやインターフェース、
ソフトのバージョンや電源環境、コンピューターの構成やOSなど様々な要素に加えて
チューニングの要素も多いプロ用機であるProtoolsHDを長期に渡って使用する事無く、
安易に否定する事自体がナンセンスです。
これほど動作が安定しており、ソフトとハードが一体となりつつさらに柔軟なハードウェア選択とチューニングが出来る
システムをケーブルの音の違いを語れるような方々が何故安直に否定するのか全く理解に苦しみます。
同じHDシステムであってもチューンや環境で音は違って当たり前であり、それは同時にそうなってしかるべき精度で
オーディオを扱えると言うことをあらわしています。それは良いものはよく、悪いものは悪く聞こえてしかるべき精度です。
ただスタジオ立ち上げにおいてProtoolsHDを導入する場合、かなりのコストがかかります。

MORGではPrism SoundのADを採用していますが、これ一機でProtoolsHDセットが買える価格がします。
Protoolsに不満はありませんが、192IOのファンノイズが気になったことと、Prismのサウンドが本当に素晴らしかった
ため導入しました。もちろんProtoolsHDに直結できています。マスタークロックでもサウンドは大きく変わります。
こういったことでProtools(というかDAW)の音は自在に変えることが出来ます。
さらにMORGでは最終ミックスはアナログ領域ですのでその変化をそのまま反映させることが出来ます。
内部バウンス、内部ミックスはDAWによって演算の傾向も違いますし、少なからず音が変化します。
このことで好みが合わずProtoolsの音がどうこうと言う方がいるのだと思いますが、全く稚拙な域です。
様々なDAWを使いましたが、こんなに味付けの無い正直なサウンドはProtoolsHDしかないです。
DAWでの味付けが無いからこそアウトボードで正確なサウンド演出が出来るわけです。

最高の音を求めない、あるいは認識出来ていないスタジオであれば正直ProtoolsHDも名機も要りません。

そして実際のところ全世界で一線のプロの使用するスタジオのほぼ100%がProtoolsHDを導入しています。
それは不満ながら右に倣えをしているわけでも何でもなく、ProtoolsHDが優れているからに他なりません。
また、それにより非常に安心して複数のスタジオ間での仕事のやり取りが出来ているのも事実です。

MORGもMOTU製PCIベースインターフェースを使用してCUBASEをメインに使っていた時期があり、
スタジオを構えてからもしばらくは実際LEでインターフェースはAPOGEEしか使わないというシステムで
やってきたのですが、クオリティーを追求するにあたりやはりprotoolsHDの必要性を感じ、導入に至りました。
はっきり言って実際に使うまではMORGもHDの必要性を重要に思っていませんでした。
今となってはこんなに必要性を感じているにも関わらずです。触れる機会があればもっと早く導入していたのは
まず確実ですが知らないということは非常に恐ろしい事です。
プロ用商品かつ価格が高い事もありますが、DIGIDESIGNのサイトですら十分な説明がなされていないように思います。
特にProtoolsLEユーザーでProtoolsHDの仕組みすら知らない人が数多くいるのが現状だと思います。

ProtoolsLE=CPUベースのProtools ProtoolsHD=DSPボード制御のProtoolsなどという単純なことではありません。
多くのスタジオでProtools導入!と声高らかに書かれていたりしますがLEである事も多く、誤解をまねかないよう
LEと明記していただきたいと思うくらいです。多くのバンドは録音機材に関して無知な事も多く誤解が生まれます。
そういった記載をする事自体がHDでない事の不利益を隠蔽している事はレコーディング関係者であればわかります。
しかし、無知なバンドにはわかりません。無知なのはスタジオを信用してレコーディングを任せているからです。
熱意があるのであればスタジオ側はバンドに信用されていると言う事を再考願いたいものです。

ではここから何故プロはProtoolsHDを必要不可欠と考えるのか?
至極当然な事も含めてそれを解説したいと思います。

まず、レコーディング時にAD/DAのレイテンシーを気にせずに使えるということ。

これはかなり重要で、LE等はレコーダーを通過した音はDAWの内部処理による音の遅れ(レイテンシー)が
あるため、レコーダー通過前の音をモニターするしかありません。(図1)

PTlooting01

つまりこの状態で録音すると、録音モニター時に期待通りの音であったとしても、
プレイバック時にはAD/DAされたレコーダー通過後の音が聴こえてくるので録音時の音とは異なってしまいます。
一般的にはインターフェイスから直ではなくミキサーも経由してプレイバックされるため、
録音時と比べてAD→ハードディスクに録音→DA→ミキサーを通る事になります。(図2)

PTlooting02

これでは録音時のシビアな音質調整は不可能です。
演奏時に実際聴いている音がプレイバック時に100%同一であるという当たり前な事が
このシステムでは出来ないわけです。

一方ProtoolsHDではDSPボード上で処理を行うため遅延(レイテンシー)がありません。
ProtoolsHDというシステム上でまさに図1、図2におけるミキサーの役割を果たしています。
ゆえにレコーディングミキサーが無くてもアウトボードでスタジオを構築できるわけです。

次に遅延の補正機能です。

プラグイン(DAW内部で使うCPU演算のエフェクター)を使用したミックスは日常的に行われていますが
そのプラグインは演算によって処理されています。
つまり演算する分だけ遅延(プラグインレイテンシー)が発生してしまうのです。
そんなに多くプラグインをかけない場合でも100サンプル程度の遅れは発生しますし、
特にリバーブやマスタリング用のマルチバンドコンプ等は1000サンプル以上遅延が発生します。
ここまで来ると普通にパッと聴いてもかなりはっきりと遅れがわかります。
また、数サンプルのはっきりとわからない遅延でも位相のずれが発生して思わぬトラブルを起こしかねません。
例えば位相バッチリで録音したドラムの位相がプラグインで狂う事など当たり前に起こります。

ProtoolsHDは遅延を数値表示、補正が可能です。自動補正はもちろん、手動で微調整も可能です。
ポジティブな使い方をすればリズムのグルーブを前ノリ、後ろノリにも出来ます。
そして確率は低いですが万が一バグ等で遅延の計算ミスが生じても手動で調整できる事は重要です。

delay

ミックスを行うにあたりこの機能は必須です。ProtoolsLEにはこの機能が無く、NUENDO等には
自動補正が付いているのですがCPUでの処理である事もあり過負荷時に弱いです。
このあたりの過負荷時の弊害はボリューム操作等のオートメーションにも影響します。

次に決定的な事ですがCPU負荷に関わらず常に安定動作するということがあります。

ProtoolsHDはDSPカードで全ての処理を行うのでPCのCPU負荷は一切関係なく安定動作します。
システムにはHDCOREカードが必須で、必要に応じてAccelカードというDSPカードを追加します。
これにオーディオインターフェースを接続した構成がProtoolsHDシステムです。
一つのカードにプライマリ、セカンダリの2つまでIOを接続する事が出来ます。
現在のフラッグシップモデルのHDAccelはHDよりDSP処理能力が高いモデルです。
またPCIとPCI-eのモデルがあり、PCI-eの方がデータ転送が高速で余裕があります。

その処理能力は圧倒的で96Khzでも最大96トラックの同時制御が可能です。
そしてその動作はPCのCPUに関係なく安定動作します。
また、DIGIDESIGNによってMACとの相性(一部のPCも)が保証されています。
これは非常に重要で、同じようなシステムは現在他にありません。

また、IOも最大160チャンネルと膨大です。これは自己満足的な数字ではなく、
IOを何も同時に使うわけではなく、機材を繋ぎかえる手間の無いようにルーティングしておける
という事なのです。MORGでも現在24インプット、28アウトプットをフルに使っています。
また、今後も機材の増加に伴ってIOを追加導入の予定すらあります。

機材セッティングが容易であるほどインスピレーションを削らずに作業が出来るので、
その点でも非常にストレスフリーなレコーディング環境をProtoolsHDなら構築できます。

pcie

MORGは最新のフラッグシップモデル、ProtoolsHD3Accel PCI-eを導入しています。

次に優れたIOラインナップです。

DIGIDESIGINのProtoolsHDシステム用インターフェースのフラッグシップモデルは192IOですが、APOGEE、
PRISM SOUND他からもProtoolsHDに直接繋げるインターフェースがリリースされています。

192io

これらは内部あるいはリアパネルで0.1db単位まで入力、出力をキャリブレート可能です。
例えば16CHのアウトプットを確実にまったく同じ音量で出したい時等に必要な機能です。
民生モデルではこういったキャリブレーション機能はほとんどありません。
ほんの僅かな違いを認識させてしまう高解像だからこそ必要な機能と思います。
また、192IOに至ってはインプット、アウトプット共に2パターンの設定を内部で切り替える事が出来ます。
非常に柔軟なルーティングを可能にするDIGIDESIGN CORE AUDIO MANAGERも秀逸です。
そしてどのモデルも単体でクロックがしっかりしていますし、複数のインターフェースを使う際には
DIGIDESIGN SYNC I/Oがクロックの安定を果たしてくれます。

ptsync

クロックについて書き出すと長くなるので割愛しますが、マスター時とスレーブ時で機器のクロックの方式が
切り替わるので機器固有のクロック能力を発揮する場合はマスターで無いと意味がありません。
ゆえにIOを複数使用する場合はマスタークロック専用機の使用がベターです。
クロックは特にアナログ回路を使う際にも重要で、アナログを介して処理を行う際のAD/DA時のジッターを
最小限に保ち、サウンドを最上級に保つ役割を果たします。
ただジッターに関してはこのクラスの機材であれば数字=音質のような単純な事ではなく、
サウンドの好みと呼べる範囲での違いです。

ProtoolsHDシステムの特徴は大きくこんな感じなのですが、いずれも当たり前な機能ながら、
どれもプロフェッショナルなレコーディング、原版制作には必要不可欠と思います。
実際世界中のスタジオで愛されているのはやはりProtoolsHDだというのも今となっては頷けます。
確かに高額な品ではありますが、それに見合った代替機の先出し修理等のサポート体制も
含んでのことと考えれば本当に充分な機能と安心を適正価格で入手できていると思います。

少なくともまだ当分はProtoolsHDを越えるプロユースのレコーディングシステムは出て来ないでしょう。
ましてPCベースではまだまだ課題が多すぎて本物のプロユースにはなり得ません。
そして根本的に記録方式など何かが異ならない限りProtoolsHDから乗り換える必要性も無いと思います。
ただSACDで採用されているDSD規格はPCMと比較にならないくらい音がいいのでSACDが普及する
ような事になれば即乗り換えたいほど魅力的です。PRISM SOUNDのインターフェースでPROTOOLSもDSDに
対応していますが現状需要は限られているため広く普及はしていません。

ただし、作曲や編曲に関する機能はLogicやCUBASEの方が使いやすいという事もあります。
Protoolsがあれば何も要らないというProtools信者のような考えではなく、あくまでレコーディング、
ミックスなど、レコーディングスタジオに必要な機能についての見解です。
実際作曲はLogicやCUBASEで行い、ミックスをProtoolsで行うということは非常によくある事です。

また、単純にProtoolsHDがあればプロの音が出るといった事でもありません。
機材をしっかり使いこなせてはじめて本当にいい音をプロレベルで継続して製作出来るのです。

音楽は聴こえが良ければ全て良しですが、ストレスフリーな環境は決してマイナスにはなりません。
もちろん環境のストレスからくる工夫や試行錯誤は知識のないうちは必要ですが、宅録ならいざ知らず、
プロがそんなことでは全くお話になりません。

逆に試行錯誤の自宅録音をさらに磨き上げる場合にもやはり本物のプロユース環境は必要なのです。
レコーディングスタジオを探す場合はそれらの事も踏まえて検討すれば失敗も無くなるでしょう。

HD = HIGI DEFINITION

ハードディスクレコーディングが一般的になり、また、ハードディスクをHDと略しますが、
ProtoolsHDのHDはハードディスクの略ではありません。HIGH DEFINITION(高解像)の略です。
響きは同じハードディスクレコーディングシステムでも192Khzまで現実的に実用レベルで対応する
設計なのはprotoolsHDくらいのものでしょう。まだまだこのツールは可能性を秘めています。
良い作品はより良い音でよりロスなく、ダイレクトにリスナーの心へ届くとMORGは信じています。