何故“定番機”が必要なのか?


レコーディングスタジオには必ずマイク、プリアンプ、コンプ、EQ等で定番機が置かれています。
マイクで言うとNEUMANN U87、U47、M149、AKG C414、C451、などが有名で
プリアンプでNEVE 1073、1066、1081、1084、1272、コンプでUREI(UNIVERSAL AUDIO)
1176LN、NEVE 33609、EQでAVALON DESIGN AD2055、AD2077,GML 8200,API 550等です。
他にも定番と言われる機材は数多く存在しますがいずれも値崩れしにくく比較的高額です。

ここでも一部のスタジオでは先のProtoolsをLEとHDで判別せずProtoolsと呼ぶスタジオがあるように、マイクに対しても
型番ではなくNEUMANN、AKG、BLUE等の名前のみを掲載し、実際は廉価モデルであったりすることがあります。
これも非常に誤解を生みます。NEUMANNでも例えば廉価のTLM下位機とU87では全く構造もサウンドも違います。
AKG、BLUEも同様のことが言えます。でも知らない人から見れば同じなわけです。
ことボーカルでプロ用途のスタンダード言えばNEUMANNでU87、U67、U47、M49、M149、AKGではC12VR、
BLUEでBLUE BOTTLE、SONYでC800G、BRAUNERでVM1、MANEYでGOLD REFERENCEあたりです。
もちろん他の機種も使いますが廉価機を万能用途で使う事はまずありません。
費用対効果をスタジオのウリにするのは全く否定しませんが誤解の無いようにして欲しいと思います。

本当にいい音でレコーディングを行うには最低限いいマイクとプリアンプは必須です。
選択は様々ですが、これが音の入り口ですのでこのいずれかに妥協があると問題が発生してきます。
そしてコンプ、EQ等数えだせばきりが無い機材群が必要になってくるのがプロの環境です。

しかし、良くオーディオ業界などでは○○の上とか○○に勝つといった表現がありますが、
プロの製作現場においてそういった表現は実際あまりありません。

また、いい機材を使えばいい音が出るというような単純なものでもありません。

そして、何もビンテージが絶対などど新しいものを否定しているわけでもありません。

プレイと同じで楽器も機材も個性があり、狙いによって使い分けることが必要になるのです。

ドーンと看板機材が機材リストにアップされていて、うちはこのサウンドです!と豪語する
ようなスタジオに限ってどのバンドも同じ音で仕上がります。
そこにバンドの個性はなく、全くもって退屈です。安かろうと何だろうと選択肢があると言う事は
それだけで探究心を生みます。そしてそれはかけがえの無い経験として蓄積されていきます。
NEVE、FOCUSRITE、AMEK、API、SSL、AVALON、GML、NEUMANN、AKG、BLUE、UREI、
どれも素晴らしい名機ですがソースによっては全くはまらない場合も多々あるのです。
ゆえに看板機材よりも機材をバランスよく揃えることがプロ環境には必須です。

MORGでは本物の伝説的名機、新製品でも名機の類を時間をかけて数多く揃えています。
この選択肢から生まれる経験と探究心はメンバー、新人の技術の向上には不可欠と思っています。

定番となった機器はそれなりの理由、魅力を持っています。
そして数々の名盤で聴かれる機材の組み合わせを実際に再現し、使いこなすという
エンジニア、プレイヤー共に実に有意義な、素晴らしい経験をさせてくれます。

伝統を知り、そして進化や時代に合った変化を見出していく。
それが近代の芸術制作発展における一つの答えであると確信しています。

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また、最近は特にDAW内部で使用するエフェクターとして定番EQ、コンプ等のモデリングをされた
プラグインソフトが発表されていますが、当然ながら適当なマイクやマイクプリで録音した音にその
プラグインを使用した場合と、こだわりぬいて録音されたトラックに使用するのではその差は歴然です。

マイクによって空気の振動が電気信号になり、マイクプリが電気信号を増幅し、EQやコンプで調音し、
その音がしっかりアナログからデジタルに変換されると言う事が大前提としてあるわけです。
また、このように録音されたサウンドの場合プラグインでの編集が不要な場合も多々あります。

そもそもこれらのソフトウェアは通常実機に手が届かないアマチュア向けに民生機の音をDAW上で
向上させるような用途で出来ているわけではなく、良く録音されている事が前提のプロの環境においての
効率的な加工の用途で出来ているように思います。