プロの言う“マスタリング”とは?


近年マスタリングと言う言葉を耳にする機会が増えてきましたが、旧来マスタリングとは
音の質感、音量、曲間を整えて一枚のCD作品として聴きやすい仕上がりにする作業です。

狭義の解釈ではスタンパー(金型)作成の事を挿しますが、現在は基本的にその用途で使う事は無く、
スタンパー作成は普通に『スタンパー作成』、『スタンパー製造』と呼びます。

プレス業者、工場と付き合いの無い方にはわからないのかもしれませんが、MORG及び関連業者の
CDプレスオーダーシートにはマスタリングが必要か、必要でないかの選択項目があります。
必要と選択された場合は前述の音質、曲間等の調整、マスターデータ作成に入りますが、既に
マスターとして使える形で入稿の場合は無しを選択し、そのままスタンパーの作成に入ります。

現場においてはこのように明確に定義が構築されており、スタンパー作成をマスタリングと呼ぶような
マスタリングエンジニアはプロでは皆無と言えるでしょう。

何百件とCDプレス、マスタリングを扱ってきましたが、現場レベルで言えば感覚的には、

プリマスタリング… 音圧、音質等を整える主にサウンドを加工する事。

マスタリング…   音圧、音質等を整えて曲間を調整し、スタンパー作成に使える形式で納品する事。
          またはそのいずれかの行程を指し、基本的に音源(原盤)を最終完成形で納品する事。

という感じです。

『音の調整は終わってるんで曲間整えてISRC打ち込んでDDPでマスター作ってください。』
という内容でマスタリングが来る事も現場ではざらですし、本来の意味がどうとかでなく、意味は通じます。

本来の意味を知ってたら信用があるとか音が良くなるんなら別ですが、用語なんてのは現場で生まれて、
現場で変化していくわけですから職人同士で通じればどうでもいいと思います。

ついでに言えばレコーディングと言う言葉自体に録音、ミックス、時にマスタリングまで一式を指す場合と、
単に録音する場合やミックスまでの場合とで現場では意味は混同していますが全然問題なく通じますし。

ちなみに参考までに、雑誌で見るようなほぼいじらなくていい音源もありますが、稀です。
技量のあるエンジニアか相当作りこんだ作品でないとその領域の作品は難しいです。
そういった作品はマスターコンプなども必要の無いジャンルであったり、レコーディングから
ミックスまで質感タップリにコンセプトを持って作成されたプロの作品でしかありません。
残念ながら宅録で質感もバッチリの音源はちょっと聴いた事がありません。

で、更にプロの多くはマスタリングでの変化を想定してレコーディング、ミックスに集中している
という事もマスタリングの現在の意味を高めています。

だからこそ今マスタリングという言葉の意味は変化し、アナログ回路にも焦点が当たっているのです。

マスタリング行程でマスターレコーダー、アナログ回路を通る事でより音楽的な質感を得られる事から、
特にデジタル機器の普及した現在はアナログでのマスタリングが大きなウェイトを占めています。
適切にチューニングされた機材と数種のスピーカーでモニターしながらサウンドを整えます。
この際リラックスした雰囲気で行うのですが、これにより客観的に作品と向き合う事が出来ます。

しかしながらマスタリングという言葉が広がるにつれ、プラグインソフトやマスタリングエフェクトで
その作業を完結できてしまうと勘違いをした宅録ミュージシャンや無知なレコーディングスタジオにより
マスタリングと言う言葉のアマチュアな範囲での新たな定義が出来てしまいました。
デジタル録音した音源をその中だけでマスタリングまで完結する事が不可能とは言いませんが、
やはり深みにかけてしまう印象は否めません。
これはミックスにも言えますがアナログ機器の深みは音楽の歴史であり、デジタルでは今のところ
まだ到達できていないサウンドと魅力を持っています。

プロの作品はほぼほとんどが旧来のプロの定義のアナログ機器を使ったマスタリングを行っており、
プロのマスタリングスタジオにおいてマスターイコライザーとマスターコンプレッサーが無い、あるいは
プラグインのみでマスタリングスタジオと名乗っているような所はありません。

しかしながらプロ定義のマスタリングで使うようなアナログのマスタリング定番機は非常に高額です。
まともに揃えると機材のみで数百万、電源、モニター環境等も揃えると更にコストがかかります。
そのうえビンテージ機器が非常に重宝されるため機材の入手タイミング、メンテナンスも困難です。
それも今日のアマチュアマスタリングの氾濫を招いているのかもしれません。

ただ宅録等で行うプラグインでの簡易なマスタリング自体を否定するわけではありません。
プロのマスタリングスタジオにもプラグインは豊富にありますし、時にアナログと複合的に使用します。

もちろんアナログを使う必要の無い完成された状態であればデジタルのみで終わる事もあります。

自分に必要なレベルに調整できるのであれば、環境や知識の無いスタジオにお金を払ってまで
アマチュア定義の簡易マスタリングをしてもらう必要は全く無いと言う事です。

音圧に関しても上げればよいというものではなくジャンルを見極め、また、音圧を上げる際も
イコライザーを使い、リミッターの音を感じさせないような適切な処理を行う事が大切になります。
近年マシになったもののまだまだ音圧だけを聴いているのか音が歪んでいる作品は多々あります。
これらリミッターで歪んだ音は残念な事にまともなリスニング環境になるほど不快に感じられます。
これでは音楽を聴く環境を整える意味も音楽に向き合う事も無くなって行くのは当然です。

音楽はBGM、産業、商品以前に芸術です。

同じ機材でも触る人間によって仕上がる音は違いますが、プロ定義のマスタリングとアマチュア定義の
マスタリングでは全くお話にならないくらいの差があるのが実情です。

そしてプロのマスタリングエンジニアは様々な音楽に触れ、感性を磨き、また同時に商品的に必要な基準と
クオリティーを理解しています。そういった人間が最終工程で関わり、また、アーティストもリスナーとなり、
作品を客観視する事によって新たな発見、感性が加わり、より良い作品が出来上がるのです。

MORGのエンジニアは大手CDプレス会社のマスタリングを中心に長年の経験、実績を持っています。
同時に日々の研究、調整も怠らず様々なケースに対応可能です。

MORGはマスターレコーダーにTASCAM DVRA1000HD(DSD)、マスターイコライザーに
AVALON AD2055custom、Prism MEA-2、マスターコンプレッサーにNEVE33609(ビンテージフルディスクリート、
MARINAIR トランス )を主に使用し、VINTECH AUDIO 609CA(マスタリング用改造済) 、
SSL G-series master bus comp、 Prism Sound MLA-2、AUROORA GTC2、 AMEK9098CL(初期型neveロゴ)
など通すだけでもサウンドに個性の出やすいコンプレッサーにバリエーションを持たせています。
特にMORGのNEVE33609は最も評価が高く非常に希少な歴史的超名機です。
また、極限までいい音を追求するため、特注のRSケーブルを採用しています。
また、別途必要な場合非常に希少なオリジナルマリンエアトランスのNEVE1066を通す事も可能です。

studiomea2600

これらの組み合わせで繊細なサウンドから極太なサウンドまで多彩に生み出せます。
また電源環境、ノイズ対策も国内最強クラスで設計しています。
今日氾濫するマスタリングと差別化するためにMORGではSSLミキサー経由でDV-RA1000HDにDSD録音し、
アナログ機器を通して行うマスタリングをSAHD(Super Analogue High Definition)マスタリングと呼びます